第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉
でも、同い年の彼は、私の記憶が正しければ、ここから少し離れた美大に行ってたような気がする。なんでここにいるんだろう。
気になった私は、尋ねてみた。
「あの、なんでここに?」
「え〜、やっぱり気になっちゃう?」
「あ、いいです」
「ちょっとちょっと〜!?」
私がどんな返しをしても、平然としてる。何を言われても表情を崩さないあたり、さすがだと思う。慣れってやつか。
「てか、奏ちゃんこそなんでここいんの〜!」
「ただの暇つぶし」
「マジ!?じゃあ、オレと一緒に暇つぶし、しちゃわない!?」
「遠慮します」という私の言葉を無視して「じゃあ、この近くのカフェ行っちゃお〜!」とノリノリで提案する彼に呆れつつも、仕方がないなと首を縦に振った。私が彼に甘いのは、とうに自覚してる。
「じゃ、行っちゃお〜☆」
ほら、とさり気なく傘を開いて入れてくれたのも、濡れちゃうから、と肩を抱き寄せたのも、きっとただの気まぐれで。意味なんかない。そう思って、私は、フレグランスがふわりと香る彼に身を預けた。こういう三好の強引なところは、嫌いじゃない。
「ここ……」
着いた先は、私が雨宿りを目論んでいたカフェだった。たしか、もう少し近い所にもカフェがあったけど、そこはスルーしたみたい。
三好、もしかして私の好みをまだ覚えてる?
「あれ…もしかして、ヤだった?」
こういうとこ、好きだと思ったんだけどな、としょんぼりして覗き込んでくる三好。強引なくせに、こうやって人の顔色ばっかり窺う。やっぱり、あの頃から何も変わってない。それが逆にホッとする。
人の好みも熟知してるし、人が嫌がることはしたがらない。気ばっか遣って、ストレス溜まりそうな生き方。私は耐えられそうにない。
「ここ、来たいと思ってたところ」
思わず笑みを零すと、「マジ〜!?テンアゲっしょ!!?」とまたキラキラした笑顔を向けてきた。
嗚呼、眩しい。あの頃もそうだった。
キラキラ輝く彼の周りには、いつも人が居た。どこか遠い人だな、と思ってた。
でもある日、彼がその才能だけで輝いてるだけの人じゃないってことを知った。人の知らないところで努力を積み重ね、それをひけらかしたり、胡座をかくこともしてなかった。
思い出した。
そうだ。あの日も、こんな雨の日だった。