第1章 誤報のご褒美〈三好 一成〉
朝起きて、空を見たら快晴だった。お天気キャスターのお姉さんも、「今日は1日過ごしやすいでしょう。雨の心配はありません」って言ってたはずなのに。
それなのに。
「なんで、こんなにザバッザバなの…?」
大学のレポート提出が終わって、久しぶりの何もない休日。羽根を伸ばしがてら、せっかくだから、どこかに出かけよう!と思い立っての外出。
最初は、天気予報通りの晴天だった。日差しがポカポカで心地よくて。
それなのに、どんどん雲行きは怪しくなって、案の定降ってきた激しい雨のせいで、髪も、服も透けるほどではないけど、濡れてしまった。
生憎、朝のお姉さんの言葉をすっかり信じてしまい、傘は持ち合わせてない。前にもこんなことがあった気がする。
天鵞絨駅で雨宿りをしてるけど、全然止む気配がない。今日は私の趣味のカフェ巡りがてら、この辺をゆっくり散策する予定だったのに。
でも、よくよく考えればこうなることくらい予測できた。最近は変わりやすい天候だから、天気予報が当たらないこともしばしばあったし。
溜息をひとつ。つくづくツイてない。もう止まないのなら、このまま走って最寄りのカフェでも探して、意地でもゆっくりしてやる。
「よし、ここに決めた!」
地図アプリを開き、“近くのカフェ”で検索。それなりの数が出てきた。その中で、行ったことのない、ある程度近くて雰囲気の良さげなカフェを選び、ルート案内開始を押す。
ここから5分。走ったら4分くらいの距離に良さげなのがひとつ。4分くらいなら、途中何度か雨宿りすればそんなに濡れずに行けるはず。
グッと拳を握って1歩を踏み出す。いや、正確に言えば、“踏み出そうとした”。
右腕を掴まれ、後ろにクイッと引かれた。既に片足は地面から離れていて、その上急なことだったから、後ろに倒れ込むことを回避できなかった。
「わっ、ごめんなさ、」
倒れてきた私の肩を掴んで、そっと支えてくれた人に一応謝罪する。引っ張ってきたのは相手だけど。
顔を見ようと振り返ってみると、その顔には見覚えがあった。
懐かしい。と言っても、インステなんかではよく見かける。けど、直接会うのは2年とちょっとぶりだ。
「え、あの、三好…だよね?」
「そそ!せいか〜い♪奏ちゃん、久しぶりっしょ!」
ニコーッと、太陽のように明るく笑う彼。そして、相変わらず整った顔立ちをしてる。