【降谷零】意地悪すぎだよ!降谷さんっ!!~翻弄しすぎの上司~
第15章 忘れ物
「ありがとうございます!」
「いいんだよ!冷めてもウチのはうまいからね!」
そう言って見送られた雅。ずっしりと重たくなったその右腕にも、顔はほころんでいた。
カランカラン…
いつも通りの軽いウィンドウチャイムの音と同時にコーヒー豆のほろ苦くも心地いい香りが漂ってくる。そんなささやかな幸せを胸に膨らませて雅は席に着いた。幸か不幸か昼食時間前という事、また平日という事もあってそれほどお客様は店内に居なかった。メニュー表を広げながらも雅は待った。安室がやってくると嬉しそうに声をかけると少しだけと話を始めた。
「これ…いつもおいしくいただいてるので皆さんでどうぞ?」
「これ…?」
「たい焼き!」
「ありがとう。頂きます。」
「それと……こっちが本命…」
「ん?」
そう言うと雅はスッと降谷の携帯をだした。『あっ…』と小さく漏らすとすぐに顔もほころんで安室はエプロンのポケットに携帯を滑り込ませる。
「まさかと思うが…このカモフラージュに差入を?」
「…はい…手ぶらじゃかっこ付かないかなって…」
「そんな事もないと思うが?……君も食べるかい?」
「いえ…私は…」
そう言いながらも小さく手を振る雅。そして甘い香りを含んだ袋を持って安室はカウンターに戻って行った。足りるだろうと思いある程度の枚数を買ってきたものの、逆に多かったのかも知れないと思い出してきた雅。そう思っていた時だ。トトト…っと梓は走ってきた。
「あの…、すみません。」
「はい?」
「安室さんから聞いて…あんなにたくさんのたい焼き…本当にいいんですか?」
「はい、もしよければ…お昼やおやつに……いつもおいしいサンドイッチ食べさせて貰えてるので……」
「ありがとうございます。頂きますね!」
そういって梓はカウンターに戻って行った。その後、安室と親しげに話をしている姿を見て一瞬淋しさも感じたが、昨夜の降谷の言葉がふと蘇って来た雅。ここにいる間は安室さんだ…それは忘れてはいけない事…それ以上でも以下でもないという事だった。この日はアイスレモンティーだけにした雅はいつもよりも早い時間で、会計を済ませてお店を出た。そんな時だ。不意に雅の携帯が鳴った。