【降谷零】意地悪すぎだよ!降谷さんっ!!~翻弄しすぎの上司~
第25章 砕かれた夢
自身から誘い、中に招き入れたものの、この状況をどう処理したらいいか…雅の頭は一気に動き出した。
「な…何か飲む?」
「……任せる」
そう答える降谷に対していかがしたものか…と考える雅。取りあえず湯を沸かし、インスタントコーヒーの蓋を開ける。良く来る事も増えたため、降谷用のマグカップも用意していたのだった。
そんな相手を背中越しに見つめていた降谷はそっと呟いた。
「なぁ雅…?」
「はい?なぁに?」
「一緒に暮らさないか?」
「…ッ?!?!?」
一瞬にして固まった雅。其れもそのはず。聞きたかった言葉とはいえ、まだそんな事を聞くには程遠いと思っていた。それに今、この空気…この中でさらりと聞く事ではなかったはずの言葉だった。
「…どうした?」
「いえ…その…冗談ですよね…」
「冗談な物か。俺がいつこういった案件で冗談を言った?」
「…それは…そんな事ないですけど…」
背中越しでも慌てているのが解る程雅はテンパっていた。そんな相手の後ろに立ち、肩口に触れて自身の方に体の向きを直した降谷。
「もちろん今すぐに、という訳じゃぁない。ただ、こうして一緒に帰る事。帰る家が同じだという事…俺は本気で雅と一緒がいいと思っている。」
「……零…」
「付き合い始めてそれほど時間も経っていない男からこんな事言われても困らせるかもしれない、それは解って居た。だけど、どうしても言いたくなってね…」
「でも…その…・・・困る」
何と言っていいか解らなかった雅の口から出たのは『困る』と言った言葉だった。その言葉以外に何か適切な物が合ったかも知れない。それでもようやく絞り出せたものはそれだった。その返事を聞いた降谷は小さく笑うとそっと頭を撫でた。
「そう、だよな。済まない。聞かなかった事にしてくれて構わない。」
「あの…」
「俺が勝手に我儘を言っただけだ。君の気持ちも考えずに…」
「それは…」
「気にするな。」
そう言うと少し伏せ目がちに頬を掻き、背中を向けた。
「やっぱり今日は帰る事にする…」
「え…でも…」
「ごめんな…」
そう言うとパタンとリビングを出て玄関に向かっていった降谷。急いで後を追う雅。
「せっかく誘ってくれたのに。また明日。」
その言葉を残して降谷は出て行った……