第2章 うつつのゆめ シンドバット [完]
お祭りの喧騒が、遠くに聞こえる。太鼓の力強いリズム、大気を震わせる笑い声。夜の闇のなかで大通りがぽうっと輝いて。
(国が生きてる)
お祭りはどこの国でだって特別な日だけれど、わたしの国よりもこの国のそれはもっとずっと明らかに生への讃歌だ。愛すべき人の営み。
『王様』
部屋にそっと滑り込む。王様の部屋じゃない。執務室でもない。ただの空き部屋の一つだ。椅子に体を投げ出して、手元にはつまむ程度のお料理。宴の中心に戻る気のない用意だった。遠慮がちに歩みを進めると、なぜここがわかったのかという顔を向けられた。(匂いで追えるわけでもなし)そんなの、ずっと見てたからに決まってる。
今夜、伝えたいことがあって、わたしは王様を探していた。
歩くたび、さらさらと薄い布が涼しげに囁きながら足元にまといついては離れする。シンドリアの謝肉祭を満喫してみたいとは思ったけれど、みんなとおなじものとはいえ、やっぱりこの格好は恥ずかしい。じっと視線を注がれて、つい言い訳がましいことばが口をつく。
『せっかくのお祭りだからって、みんなが』
シン「美しいな、。まるで、天女が舞い降りたかのようだよ。連れて歩いて自慢したいくらいだ」
『王様、お祭りに戻らないんですか?』
シン「ああ、今夜はそういう気分じゃなくてな。……実は、ピスティが気合いを入れて君を着飾らせていると聞いて、理性がもつ自信がなかった」
冗談めいた口ぶりで言った王様が体を傾けて、わたしと正面から向き合った。
シン「それなのに。……祭りの夜に、二人きり。こんなところまで追いかけてきてくれるなんて、告白でもしてくれるんじゃないかと期待してしまうな。勿論、俺の答えは決まっているが」
『しないわ』
シン「つれないな。――なら、俺が求愛しよう。唯一の愛人なんて言わない、王妃として迎え入れたい、君が手に入るなら形振り構わない」
わたしはゆるりと首を振った。しゃら、と髪を飾る簪が鳴る。
それがどんなに光栄なことかはわかってる。王様だからじゃなくて、誰かにこんなに心を差し出してもらえることそのものの得難さ。だけど、
(わたしは、はじめから)