第4章 無垢なる天使
『親はいないですし、お風呂にでも入って濡れた身体を温めて下さい』
そう笑う真白は、なにも知らない純粋無垢な女の子だ。そこに意味なんてない。
だけど、雨宮は男であり、しかも性には盛んな方。そのせいで彼の思考に悪い悪魔が忍び寄る。
「お風呂か、確かに雨の独特な臭さがあるしシャワー借りたいかな」
この子、見た目地味だけどーー乱れたらエロそうだよね。
『全然いいですよ。お礼したいですし、上がって下さい』
いつもの淡々とした口調で雨宮を誘うと、真白は自室のドアを開けた。
雨宮は車をアパートの駐車場に止めてから、螺旋階段で二階に登り、真白の立つ部屋に来る。
そして二人は同時に部屋に足を踏み入れた。
『コーヒーでいいですか?』
「あ、嬉しいよ。ありがとう」
『いえ。あっこれ、お母さんの彼氏が買って来た有名な珈琲屋のブレンドコーヒーですよ』
テーブルの椅子に座っている雨宮に、真白はコップに入ったコーヒーを渡す。
色味が濃く、味わい深そうだ。
雨宮はコップに口をつけて飲むと、コーヒー豆の香り豊かな風味に喉を鳴らした。
「流石有名な珈琲屋なだけあるね、美味しい」
『なら良かったです。お母さんの彼氏もよく美味しい、美味しいって言って飲んでたので』
クスっと雨宮の前に腰を下ろした真白はココアを飲んでは柔らかく微笑んだ。
きっと家庭事情が複雑なんだろう。
雨宮は真白から視線を逸らし、こげ茶に染まったコーヒーの水面に目をやる。
お母さんの、彼氏ーーね。