第5章 ミルクとコーヒー
「私には関係ないけど。唯人はさ、モデル並みにめっちゃカッコイイんだから勿体無いわよ? 女性には優しくしないと」
殺人鬼には効果なしの恋愛テクを伝えた女性は、床に散らばった衣服を身につける。
そんな彼女を横目に唯人は理科室のカーテンに目を向けた。
ーー優しく、ね。ーー
「お前も彼氏いねぇじゃんかよ」
「そうなのよ。…って! それはあんたが傍若無人に私を呼び出すからだろ! てか、お前って……、私は佐伯 真澄(さえき ますみ)です! せめて佐伯先生って言ってよ」
そう笑う彼女は、黒の艶ある長い髪に白のブラウス。そして黒のタイトスカートを履く教師であり、今の姿は教師ではない、夜に咲く綺麗な女性だ。
「なら淫乱先生だな」
「もうそれでいっか」
とほほっと、呆れた顔しながらもその表情はどこか温かい。
そんな佐伯に唯人も少し口元が綻ぶ。
二人はセフレというには少し違う。
佐伯は唯人に逆らえない奴隷だ。
でも、唯人の尖った性格を丸めてしまうような飼い主的存在でもある。
「じゃあ唯人、帰りは気をつけなさいよ」
「あんたもな」
そしてプイッと横を向く唯人。
理科室のドアに立つ佐伯は眉を顰めるも口は笑う。
「 全く困った奴ね。そんなんだから友達ゼロなのよ」
「うるせー!」
鬼の形相に変わる唯人の顔に、佐伯は悪戯に笑ってはドアに手を掛けた。
「その顔じゃいつまでも彼女は無理ね。じゃ、私は先に行くわよ。明日は遅刻せずに来なさい」
「気が向いたらな」
そんな唯人に佐伯ははぁっと溜息をつくも、ガラーっとドアを開け、そして唯人のいる理科室から消えた。
「なんなんだよ、あいつ。調子狂わせやがって」
誰も居なくなった理科室。
唯人は静かに目を閉じる。
ーー俺の気持ちも知らないで、あの野郎ーー