第2章 汚された未来
「で、この女を殺害して欲しいと?」
「ああ。俺と婚約してたのに、あいつは……あいつは俺を裏切ったんだ!!」
「お静かに。いくら個室だとしても感情的に声を荒げるのはおやめ下さい」
とあるビルの中、その三階に薄明かりのバーがあり、そこのバーカウンターの更に奥の部屋、誰も気付かないような部屋に雨宮たちはいた。
雨宮は革製の1人掛け用のソファーに腰を下ろしては目の前にいる男を見る。そんな雨宮の前、男は30代くらいだろう。彼も雨宮同様のソファーに腰を下ろしては頭を抱え、静かに口を閉じた。
「ふっ。では確認させて頂きますね」
男の従順な態度に雨宮は不敵に笑うと、雨宮と男を割くように置かれたテーブルの上、一枚の紙を手に取る。
「高橋 愛美、24歳、現役風俗嬢か。一人暮らしで本業はしていない」
雨宮は事細かく書かれた書類を一門一句間違えずに目を通していく。
「あの、雨宮さん」
「ああ、今集中してるので話し掛けないで下さい」
「あ、はい」
黙る男を書類越しに確認し、雨宮は再び目線を書類に向けた。
ほうっ。両親は他界、それに姉妹とは疎遠で親戚とも因縁のなか。なかなかにハードな人生を送っているな。
でもまぁ、風俗嬢なら関わりを持つのは簡単だし、死んだとしても一人暮らしなら周りが気づくのに時間が掛かる。
これはかなり良い案件だ。
雨宮は用紙を持ち、口の端をあげた。
「どうですか、やってくれますか?」
書類の奥、男は雨宮の顔色を伺うように問う。
そんな男に雨宮は首を縦に振った。
「ええ。ですが、事件が発覚したら出頭が義務ですからね? まぁ、バレないように仕込むのが私のやり方ですが。仮に事がバレたのに出頭出来ない時は、俺がお前を殺す」
「っ!? あ、ああはい」
雨宮の鋭いめつきに男はたじろぐ。
まるで、心臓を掴まれたかのような錯覚を感じたからだ。