第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
泡を吹いて殺気に当てられた二人が気を失う。
学外にいる人間も含め、全てのデータが消失したことを確認すれば、中也以外の構成員達は去っていく。
そしてこちらを振り返った中也は、膝をついて手を伸ばしてきた。
「…お待たせ。いきなりどっかいくから見つけんの遅くなった……怪我は?」
『…し、て…ない』
「そうか、なら良かった。…立てるか?」
『………無理、そう』
ポロポロと溢れるそれが、どこから来るのか分からない。
おかしい、私…こんなこと今までなかったのに。
「お前の泣き顔に弱いんだけど?俺…もしかして俺が怖がらせた?」
『…中也、怖いからあっちいって。私今は双熾の方がいい』
「は…えっ、お「リアッ、貴女また無茶なことして…!!怒りますよ…!!?」…ああ、そういや何か揉めてたなお前ら」
へいへい、と投げやりに返して凜々蝶ちゃんの安全を確認しに行く中也。
目の前の双熾は珍しく感情をあらわにして、私に向かって涙目になっていた。
「貴女、昨日も…分かっているんですよ、貴女にあったことなら。水に濡れたせいで盗聴器がやられてしまったのが運の尽きでしたが」
『…まだストーカーしてるわけ、シスコン』
「心配くらい、させてください。…先に乾かしに行きますよ、濡れたままにしたらすぐに扁桃腺腫らしてしまうんですから」
『………なん、か…力入んなくて』
言うが早いか、抱えられる。
そのまま、今となっては唯一無二の私の血縁者は文句のひとつも零さずに、私を控え室まで運んでドライヤーで髪や服を乾かしてくれて。
「…どうしてあんな入り方を?凜々蝶様は、僕の主であって…人見知りの激しいリアとはまだそこまで親しくないはずでしょう」
『失礼ね。私だってお世話になってるのよ』
「また、僕の事で勝手に感謝してしまっていたのでしょう?女性が体を冷やしたり、無茶するものじゃありません。……それとひとつ、中原さんとはいったいいつから交際を?」
『今日のお昼前』
「お兄ちゃんに許しを乞うてからにしなさいとあれほど言い聞かせて育ててきたのに…っ、そんなの許せるわけないでしょう、ちゃんと紹介しなさい。面接します」
『出たよシスコンストーカー…』
多分凜々蝶ちゃんなんかになるともっと酷い被害になってるんだろうなぁ…知らない方が彼女のためだ。
それより何より双熾のため…なんだかなぁ。