第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
今度こそ、腰が抜けて立てなくなった。
その場でへたりこんで、大きなその背中を目の前にして、声も出せずにただ見つめる。
「携帯の弁償くらいならしてやらぁ…まあ、そのデータとやらは戻らねぇ訳だが」
よくよく見渡せば、気づかなかっただけで知っている黒服の男達、それに武闘派組織の顔見知り達が紛れており、何人もの生徒の目の前に立ちはだかっている様子だった。
それからマイクを取った一人の黒服の男が言う。
「宴会中失礼致します。我々は…ポートマフィア」
ざわつき始めるホールで、彼は続けた。
「この度は、昨日数名の生徒により被害に遭わされた、“我が組織のお嬢”の次なる加害者を排除するべく足を運ばせていただきました」
一斉に銃を構える構成員たち。
それに圧倒される一般生徒は、携帯を提示させられて、データの消去を行われているそう。
「実害を及ぼさず名誉毀損のみの加害者達には、今回に限り不当データの削除のみで他には何も望みません。データの所有者、閲覧者は我が組織の情報網によりリストアップされていますので…従っていただけない場合は、この場で処刑とさせていただきます」
中也が端末を確認すると、赤色のマークが次々に青色へと変わっていく。
それが何を意味するのか…彼が何をしてくれているのか、分からないほど私も馬鹿じゃない。
「今回は余興のような形での告知となりましたが…これは予告です。今後、その御方に下手な真似をされる場合は我々、ポートマフィア…並びに五大幹部、武闘派組織が動きますので、ご了承を。今回実害を及ぼした生徒達には、各家庭に今構成員が賠償金の請求に伺っておりますので」
黒服さんの声を聞いて、思い出した。
ああ、知ってる、この声。
やけ食いするのに付き合わせた、立原くんじゃあないの。
顔が割れないようにしてるのね、なんて冷静を装っても、それでも私には嬉しかった。
怖かった…これ以上になるのが、恐ろしかった。
「…ってわけだ。手前らは俺がこの場で直接手ぇ下すわけなんだが…歯ァ食いしばれ」
風を切る音すら、聴こえずに。
気が付けば鈍い音と共にホールの床から壁に向かってヒビが入っており、彼の足元からそれは続いていた。
「あ、あああ、あんた、は……な、なんでこんな…っ」
「あ?俺?…俺ぁこいつのフィアンセ…恋人だよ。分かったら二度と手ぇ出すなよ」