第12章 キツネアザミと矛盾の芽
『ちょっと御手洗に行ってきます』
「んじゃ俺も」
『中也さんはここにいて』
そんなわけにはいかないだろうと言いかけたところで、彼女の目が俺を真剣に捉えているのに気が付いた。
「……理由くらい聞かせろ、納得がいかねぇ」
『ここにいてもらわないとリアが困る』
「他の誰かを付けるのは『もっと困るかな』俺がここから離れるとなんで困んの?」
『察しの悪いワンワンねぇ____』
人質取られたら困るでしょ。
耳打ちされた言葉にそれなら仕方ないと納得して、立原に連絡をとる。
『うっわぁ過保護』
「過保護にもなる、これくらいさせろ」
つーかおまえの方こそ過保護だろうが。
行ってきます、と笑って出て行きはしたが、彼女の中では無茶に値しない戦闘だという認識なのだろう。
それを信じて立原を呼びつけはするが……遅くないか。
「あの、中原さん。僕たちは構わないから白縹さんの様子を「ダメだ」しかし心配じゃないのか」
「あいつが困るっつってんだ、それなら俺は動かない」
「それ、絶対に何かあったんじゃ……」
「舐めるなよ白鬼院、あの女は強ぇぞ」
ヨコハマポートマフィア 五大幹部のお墨付きだ。
でかい口を叩いて納得させるが、夏目も同意見ならば動かない方がいいのだろう。
などと待っている間に、殺気がこちらに向くのを感じて異能を発動させる。
「手前ら、一歩も動くなよ」
変化しそうな血の気の多いシークレットサービス共を牽制していれば、窓とドアから同時に武装した男共が侵入する。
もちろん破片は微塵もこちらに飛んでこない。
リアの指示が無くとも、予め俺が“触れている”。
あの子の命を脅かす危険のあるものは全てだ。
逆に俺があまり得意でない気体や液体の類はあいつの領分であるし、揃っているのが理想ではあったがそうも言っていられないのだろう。
「?貴様は誰だ、記録には無い」
「記録に無いだあ?手前らが欲してる“人魚”のシークレットサービスの情報も無ぇのか、泣ける人手不足だな」
ようやく現状を理解した奴らは、ひとまず俺の指示に従うことにしてくれたらしい。
助かるぜ、その方が怪我させなくて済む。
一斉に射撃される弾丸を全て一定距離で止め、跳ね返す。
それだけで相手の人数を減らせるのだが……まあガキ共もいるし、急所に当てて立原に回収させる方がいいだろう。