第11章 珪線石の足音
「そんなにそわそわしなくてもいいでしょ。ほら、御狐神さん出てきたよ?業者さんももう仕事終わったっぽいし、エレベーター空けないと」
『だ、ダメ、今出たら見つかっちゃう』
「ええ、会いに来たんだよね?」
はっとした声を出してから、そうこうしている内に部屋に戻ってしまったらしい兄貴に本気で落ち込んでいるようで。
「あらら、尻尾垂れちゃってるよリアちゃん?」
『殺して』
「だぁめ」
『やだもう死にたい、会いたくないもう』
「会いたいから来たんだよね?」
『そうだよ?嫌がられるためにきたんだよ』
それ悪い癖よ、と撫でられている彼女は悲痛な声を出してばかりなのだが、連勝とやらに連れられて部屋の前まで来たところで、仕方ない、とそいつがインターホンを押してしまったらしい。
慌ててそいつの背中に隠れてしがみついた様子だったのだが、身体が小さすぎて本当にあれじゃ見えないだろう。
「はい……?あなたは……確か雪小路さんの」
「よっす。反ノ塚 連勝です」
聞き覚えのある名前だ、確かリアの保護者代わりとかいう高校生……だったか。
「これはこれは反ノ塚さん、いかがなさいましたか?」
「いやあね?御狐神さんがここに初めて来た日に一人紹介出来てない子がいて……ほら、出てきてくれたよ」
「こちらにはしばらく戻らず外に出られている方もいると聞きますし、そんなに気を使っていただかなく……ても…………?…………失礼します反ノ塚さん、後ろに何か……尻尾?」
まさかの尻尾が仇となって急いで逃げようとしたところ、まさかのポカでずっこける。
盛大に転んだそいつは腰が抜けたのか、後ずさって壁に背中をついてしまうのだが。
目の前のイケメンの、なんと顔の整っていることか……いや違うな、驚きがこちらにも伝わってくるようだった。
「あなたは……どうして、ここに?あんなに探しても見つからなかったのに」
『…………?探してた?』
「そりゃああんな事件があったのに探さないはずがないでしょう、僕を誰だと……ああ、無事だったんですね。どこかで何事もなく生きていてくれればと思って……ああ違う、そうじゃなくて。…………お久しぶりです」
『……はじめ、まして』
「そんな風に言わないで」
レンズがぼやけたのは、彼女の涙のせいだろうか。
『話しかけていいの……?…………穢れちゃったけど』