第2章 桜の前
私の泣き声を聞きつけたのか、この場に足音がまたやってくる。
こういう時、真っ先に駆けつけてきてくれるのは決まって連勝なのだけれど。
「“リア”!!!お前っ、まさか怪我でもし…ッ!!」
『…ぁ、…連しょ…』
「あ?…知り合いか」
一目見て、目を見開かれた。
そりゃそうか、連勝が一番よく知ってるもの、私が人にこんな風に触れること、普通内なんてことくらい。
「…お兄さんどこの人?うちのリアちゃんが自分から抱きつきにいったの?」
「…まあ、そうなるな。ちなみに俺はこいつの上司だ」
「ああ、成程…リアちゃん、その格好のままただの人間に懐いてるなんて珍しいじゃない。……また自殺しようとした?その首」
ビクリと肩を跳ねさせて、言い淀む。
『………だって、…私は…』
「…このお兄さん、リアちゃん死んじゃうのが嫌だったから止めてくれたんじゃないの?…望まれてないなんてこと、ないじゃない」
『……そ、う………なん…___』
いつぶりだろうか。
連勝の腕の中以外で、意識を手放せたのなんて。
睡眠欲に、負けたのなんて。
「あらあらあら、寝ちゃった…珍しいこともあるもんだ、不眠症こじらせまくってるのに」
「不眠症…?こいつ、不眠症なのか?」
「まあ、色々ありまして…ちょっとした人間不信みたいなものでね。安心して眠れるところが自分でも見つけられなくて、俺が寝かしつけないと眠れない生活送ってんですけど………いやぁ、お兄さんに懐いちゃってまぁ」
初めて聞いた、そんなこと。
いつもいつも、無邪気といえば聞えはいいが、はしゃいで俺をおちょくって…いたずらばかりに見えるこの子供がか。
どれだけのものを抱え込めば、そんなことになる。
…だからいつも、俺の事を怒らせるのか?
深く関わらないようにするために。
「率直に聞きますけど、この子のこの姿見て、どう思ったのお兄さん?」
「…別にどうも。強いて言うなら、少し興味は持った」
「可愛いでしょ、うちのリアちゃん。これでもまだ十五歳なの」
「十五…、なのか?こいつ…てっきりもう少し上か、と……」
ふと、肩に置いていた手に温もりがあった。
何かと思えば、俺の膝を使って丸まって眠りこける少女が擦り寄ってきていたのである。
…なんだこの生き物、ほんとに同一人物かよ。
普段からこうしてりゃいいのに、なんて。