第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
婚約者。
その響きを何度か頭の中で繰り返して、熱くなってきた両側の頬に両手を当てて、彼と目を合わせないように顔を俯かせる。
『…そ、そう。……そっか』
「……もしかしてガチで照れてる?」
『別に??ぜ、全然そんなのないし………って、で、でもなんで私?あんなに私の事怪訝に思ってはずなのに』
少し、聞きたくなった。
興味が湧いた、中原中也という人間に。
どうして、彼の言うその大事な相手というものに私を選ぼうと思ったのか。
「人間、何に惹かれるかなんか分かんねぇもんなんだよ。…強いて教えてやるならあれだな。俺に壁も作らず無駄に気を遣い過ぎず、真っ直ぐ思ったことぶちまけてくる女に初めて出会ったんだよ」
『…要するにMなの?』
「そうじゃねえだろ」
何やら、彼の人生において私のような異性は新鮮であるらしい。
大体が怖がられるか興味もないただの他人止まりになるかの二択であるらしいし。
『ふぅん?じゃあもっと罵った方がいい?』
「レディが罵るなんて言葉使うな、下品に見えんぞ」
『…気を、付けます』
「よく出来ました」
この人が言うなら…そう、しよう。
ストン、と簡単に心の奥底まで、素直に受け止められるから。
もしかして、私が意識してないだけで…というよりは周りの人の言葉使いに影響されすぎてるだけで、私って結構そういう風に聞こえる言葉使ってるのかしら。
『………って、私レディなの?』
「は?俺からしたら最初からお前はそうなんだけど?」
『…あ…、そ。………き、今日腕枕したげようか?それとも膝枕?膝枕する??』
「見事に耳と尻尾生えてんなぁ、超嬉しそうだし」
しかもそれ、どっちかっていうと俺の仕事じゃね?
なんて当然のように言ってのけてから、彼は私をベッドにちゃんと横にならせて、隣に自分も入ってくる。
そのまま彼の腕に頭を乗せられて抱き寄せられれば完成だ。
『な、ななな中原さん慣れてる…っ』
「慣れてるっつうか、して欲しそうにしてたからっつうか…これでも緊張くらいしてんだぞ?一応。けどお前があからさまに恥ずかしがりすぎててそれどころじゃねえんだわ」
『て、手慣れて…お、女遊びの賜物!!?』
「お前の中で俺はどんなプレイボーイになってんだよ」
よーしよしよし、いい子だというように、しかし強めに撫でられる。
ち、違ったのね…??