第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
中也の持ってきた箱は丁寧に包まれており、かなり上質なブランドのものであるとうかがえた。
この人、まさか自費でこんなの買ってくるなんて。
私があんなわがまま言ったからかしら。
『中也があけて』
「お前宛のドレスなのにか?」
『中也が…選んでくれたの、だから』
「そんな大したもんじゃねえぞ?…ったく」
綺麗に包装紙を外してそれを開けられる。
中から出てきたその衣装を持って広げられれば、私は言葉を失った。
パーティー用のミニドレスなのに、なんて綺麗な生地なのだろう。
こんな艶やかで肌触りの良さそうな生地…
『そ、れ……ま、まさか正絹…?』
「意外と見る目あんのな?正解。紅葉の姐さんのお得意先で見つけたんだ」
何かの着物に使われていた生地をリメイクしたのだろうか…それとも、元々がこんなデザインだったのだろうか。
形は洋装仕様なのに、細かいディテールがシンプルで、丁度スカート部の丈も太股が隠れるくらいになっている。
碧色を基軸とした色調…薄らと花の柄が入っていたり、レースの形が薔薇だったり。
『意外とは余計。…家宝にする』
「そりゃ益々いい目を持ってるってもんだ、それ一点物なんだとよ」
『…なんでこんな質の高いもの買っちゃうの』
「うちの幹部格なめられちゃいけねぇからな。あとそのドレス見つけた途端にお前が着てる姿想像出来ちまったから」
『う、ウエディングドレスの代わりにこれ着せるつもりなのね、分かった』
「まだしねえっつの」
まだって言ったこの人、今まだって。
否定しないあたりがこの人らしいっていうか、筋通しすぎっていうか男らしいっていうかしっかりしすぎっていうか心配になってくるっていうか…
『ま、まだって…ほ、ほほほ本気の本気??あんな流れで言わされたような結婚宣言』
「俺が流れに乗せられただけでそんな大事なもん決めるような男に見えんのかよ」
『お、思う…?』
「疑問形なら思ってないって言ってやれよそこは」
はあ、といつものように盛大なため息。
…実質許嫁のようなものだと思ってしまってもいいのだろうか。
『じゃあ中原さんて許婿??』
「あ?中原さん??」
『めんどくさいわね、ハッキリしなさいよ』
「お前な。…婚約者。そっちの方が合ってるだろ…俺は誰に言われたからでも、勿論お前に頼まれたからでもなく自分の意思で決めてんだ」