第11章 珪線石の足音
過去そうやって男を差し向けられた時、私を助けるのは基本的にそれをたまたま見つけた警察か…事後になってから見つけてくれた、心優しい一般人か。
保護された先で逃げるためには実家に戻ってはならないし、連絡を入れるのは毎度決まって連勝のことを頼っていた。
先祖返り同士で家の繋がりもあり、唯一傍で気にかけてくれる人物である上、助けを求めれば応えてくれる人物であることをいつからか知って、そこにつけ込むようになっていた。
彼と彼の家の力もあって妖館へ移住して、私の身請け人となって青鬼院蜻蛉が実家と縁を切らせてくれる。
……今回違ったのは、治さんが上手くやってくれたおかげか、とっとと実家から見放されて戸籍から抹消されるまでがスムーズだったことだろうか。
妖館に移住するよりも前に衣食住を提供され、ある程度育ててもらった後に青鬼院家、そして連勝の元に引き渡された。
それも全て行ってくれたのは治さんであったし、覚の私にそれを覚らせる素振りもなく、徹底して陰で護っていてくれたのである…と、彼が私の目の前から姿を消して、初めて知った。
良くしてくれるからこそ、手を繋ぐだとか、外に遊びに行きたいだとか、そんな事を言えるはずもなかったのだ。
転校の手続きをしてまで私を学校に通わせてくれたし、生活と自由を保証してくれた。
だからこそ私は彼の傍にいようと思ったし、彼の手助けが出来るようにと何でもやった。
それくらいしか、人へ媚びる方法を私は知らなかったし、何も持っていなかったから。
それなりに感謝してもらえたし、力になれればその分褒めてくれたし…心を読んでしまうと伝えていたはずの私を抱きしめてたくさん撫でてくれた。
そんなこと、今まで連勝やカゲ様にだってしてもらったことなかったのに。
決定的な違いは私の貢献度だったのだろうと理解して、もっとこの人の役に立とう、もっと治さんに認められるようになろうと、媚びて、媚びて…それくらいでしか、誰かから向けられる愛情にも似たあたたかさを繋ぎ止めておく方法を知らなかったのだ。
なのに役に立とうとすると怒ったり、体調を崩すと働くことを禁じた上、それに反抗すれば手をあげずに私を叱る人が現れてしまった。
治さん以上に理解が出来ない人だった。
私がなんにも役に立ててないのに、頭を撫でて、触れ合ってくれる、変な人。
役立たずの私の事を可愛がってくれる人。