第11章 珪線石の足音
『昼間なら自力で学校くらい行けます』
「危なっかしいからシークレットサービスがついてるんだろ?」
『シークレットサービスでもそこまでしなくても……妖怪に対してのあれだし』
「俺がお前のこと一人で外に出したくねえんだよ、許せ」
『許すとかじゃなくて』
「……俺が俺の休みを好きに使った結果がこれだ。だからそんな怖がんなよ」
ぽんぽん、と頭に触れる手に毎度泣きそうになる。
なんでこんなに優しくしてくれるんだろ…そんな質問したら、好きでやってるとか、私を想ってるからとかそんな言葉を返してくれるのだろうけれど。
彼は私を、本当の意味でただの高校生の女の子…どころか保育園児の我が娘のように甘やかすと心に決めてそれを実行してくれているそうであるし、彼からの愛情を私が向けられるのは当然のことで、決して見返りが必要なものではないのだと私の脳髄にまで覚えさせることが目的のようであるし。
『何か、あの…お仕事とかない…?』
「それは大学終わったら手伝ってくれてるだろ?」
『いや、だって私中也さんにお金も払ってないし「リアちゃん、そんな悲しいこと言うもんじゃねえよ」……ごめんなさい』
謝ることでもねえんだけどな、と困った顔をさせてしまうのもいつものこと。
「それにほら、マカロンもらったばっかじゃん俺。あれ本当に嬉しいんだからな〜?お前からあんな風にしてもらったのがどんだけ嬉しいか分かってねえだろ」
『うん…?だって中也さんは毎日私にそういう風にしてくれるのに』
「……えっ、いやリアちゃん、俺のはほら、そういう特別なあれじゃなくてただ普通の家事みたいなもんだから。全然違ぇだろ??」
『違くないですけど』
「え、ええ…なにお前デレ期入っちまったの…?」
一旦駐車してから軽く抱き寄せられるのに一瞬硬直する。
今抱きしめてもらう理由が分からなかったから。
「いいんだよ、お前のことは俺が育てるって決めてんだから」
『……でもシークレットサービスの契約にこんなの入ってないし、オプションみたいなことばっかり「リアちゃん、これ仕事じゃねえから」…でも、』
「お前は太宰に面倒見てもらってる間も一々金払ってしてもらってたのかよ?」
『……………ううん』
「それと同じだ、慣れていけ」
『…頭痛くなってきた』
「!失礼すんぞ」
そっと額に触れる手が気持ちよかった。