第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
鬱血したり擦れたりしていた所を隈無く調べられて手当し尽くされ、戸惑いつつもどこかホッとする。
『こんな、いっぱい傷見て引かないの…?さっきだって、あんなの見たのに』
「あんなのって?お前のああいうの?」
『いや、それはもう…いいんだけど。……見たでしょう?太股の傷跡』
皮膚を引きちぎられたあとのような、まるで破れたような…剥がされたあとのような、痣。
私の治癒力をもってしても、そればかりは治る気配をにおわせない。
勿論、自分でも予想外だったような痴態・醜態だってそうではあるが。
「…なんで、俺が安心させてやりたい女の辛いもん見て軽蔑すんだよ」
『い、色々重たいじゃない、こんな奴……その、貴方にあんな大口たたいといて…すぐ、これだし』
「大口?減らず口の間違いだろ」
少し間を置いて、彼は悪い、茶化したな。と、発言を訂正する。
「俺はお前の言ったこと、冗談にするつもりねぇからな?俺の言ったことも曲げるつもりは無い……心配すんなよ、いくら時間がかかっても絶対惚れさせてやるから」
『そ、じゃなくて…私、それ言ったばっかなのにこんな…』
「ん?もう大事にしようとしてくれてたのか自分のこと。成長してんじゃん」
困ったように、しかし心底嬉しそうにはにかんで、くしゃりと笑って私を撫でる。
…ほんとだ、私今回、なんでこんなに罪悪感なんて持ってるんだろ。
『………わ、私ね…嫌って言ったの。首、も…横、振って…あ、あの…初めて、意思表示した』
通用はしなかったし、結果的に意味は全くなかったけれど。
「!…えらいじゃねえか」
それでも彼が、嬉しそうにしてくれるから。
この人が、こんなにも…安心してくれるようになったから。
『もっと褒めていいよ…!』
「じゃあ俺の頼み事聞いてもらっていいか?」
『な、何??中也のお願いなら、リアなんだって聞くよ!』
「そんな風に自分にハードルかけなくていいんだよ、嫌なことも無理なこともさせるつもりねぇし………明日の立食会あるだろ?着て欲しいドレス、あんだけど」
予想外すぎるそのお願いに、彼をまた見つめる。
『…なぁに?ドレス…は、私には勿体ないと思うんだけど』
「そんなことねぇよ、似合いそうなの選んできたんだから」
聞けば、カゲ様の選んだドレスでサイズを控えて用意してきたのだとか。
『それなら…着てあげる』