第11章 珪線石の足音
お菓子の完成を待つ間に、お礼のお礼だといいつつ私を膝の上に乗せてくれ、ゴロゴロ甘えるうちに毛繕いをしてくれる中也さん。
ブラシで尻尾をとかし、毛並みを整えて可愛がってくれる。
たまにこうやって髪にするようにしてもらうのが実は好きなのだけれど、まさか人にこんな風にしてもらえるなんて考えたこともなかったもんな。
「…よ〜し、十本とも終わったぞ。どっか気になるとことかないか?」
『うん〜、中也さん好き…♪』
「そりゃ光栄です…ところでリア、お前ネイルとか興味無え?」
『へ?どうしたのいきなり』
「前入学式の懇親会でメイクした時嬉しそうにしてたから、好きかと思って」
嬉しかったとかバレてたのか。
いや、確かに滅多にしないから化粧品とかも持ってないし、あの日は野ばらちゃんや紅葉さんに好き勝手されたから軽くお化粧はされていたけれど。
にしても、ネイルねえ…?
『…あの、ネイルってしたことなくて』
「試しにやってみる?今日良さげな色見つけてきたんだよ」
『あんまり似合わないと思う、そういうの』
ぴたりと止まってから、なんで?と聞き返された。
『あ、の…りあおばあちゃんだし、したことないから』
「俺はやってみたいかどうかって聞いてるんだけど?」
『ぅ、いや…爪もそんな気を使って綺麗にしてないし』
「そのための俺です」
『………折角中也さんが用意してくれたなら、まあ』
じゃあ失礼して、と手を取られるのにビク、と震える。
あれ、待ってネイルってこれ、中也さんにずっと手触られてるってことじゃ…
『ま、待って!やっぱり後でに…べ、別の日とか!』
「構わねえけど、どうした?」
『だってなんか恥ずかしいから、』
「……じゃあ先に爪整えて、美容液塗ってやるよ。それならどう?」
『だって指ずっと触ってるんでしょ…?しかもその、す、素手であの…中也さんが素手で、リアと手繋いで…あぅ……』
「俺はお前が初すぎて心配だよ…いいじゃん、慣れていけ」
爪を整え始める彼は、ネイルをした事があるのだろうか。
好奇心から読んでみたところで、私が喜びそうだと樋口さんに提案されて調べ、ネイルチップなんかで隠れて練習をしていたことを知った。
いや、何してんのこの人。
『…中也さん、そんなに私に良くしてくれなくても』
「お前以外に良くする相手がいねぇんだ俺は」