第3章 誰そ彼時のエンジェルイヤリング
ご飯を食べ終えてから部屋に戻れば、長袖だった部屋着のパーカーを脱がされる。
「とりあえず軟膏塗って冷やしておこう。服擦れてて痛かったろ」
手首を撫でながら、彼は素直にそう言った。
『こんなのに騒いでたら身が持たなくなるわよ。私は…いつも、こんな感じだから』
「阿呆かお前、いつもそうにさせねぇためのシークレットサービスだろが。…マフィアの幹部の主人に手ぇ出すってのがどういうことか、腐れボンボン共は知らねぇらしい」
『…変なこと企んでるでしょ。ダメよ、一応一般人が相手なんだから』
「変なことも何も、お前の後ろにポートマフィアが付いてんのになめられても困るんだよ…そうするとお前は、少し周囲から敬遠されるようになるだろうが」
それでも、いいかと。
学校という時間帯、場所になると、常についているわけにもいかない自分は、威厳と実力でしか護れないのだと。
沈んだ声から、伝わった。
『……いいよ。カルタや凜々蝶ちゃんもいるし…学校終わったら、毎日お迎えに来てくれるんでしょう?』
「…当たり前だ。今度また遅刻したら校内放送で迷子のお知らせ流してやるよ」
あと、携帯ちゃんと持ち歩くのと…
言いながら、ゴソゴソと何かを持ってくる。
見せられたのは、制服のポケットにしまったはずの黒いリボンだった。
『そ、れ……あ…え…と……』
「…そこまで大事に思ってくれてるんなら本望だよ。明日からはちゃんと髪に着けておくこと。いいか?」
『で、も…私が着けてたら…』
「だぁから、それを護んのが俺の役目だろ?…お前の学校にはもう話は通してある。表沙汰にされたくなけりゃ、俺が明日付いてる許可を出せってな」
それ、脅迫っていうんじゃあ…?
なんて感じたのも束の間のこと、違和感に気がついた。
『…え、明日?…ど、どうして?』
「学校の警備システムからすぐに犯人は割り出した。あとは直接俺が忠告しに行くだけだ……次また絡んでくるようなら、死ぬか社会的に殺されるかのどっちか選べってな」
リボンくらいで俺はお前を軽蔑したりなんかしない。
お前がどれだけ大切に思ってくれてたのか、見てりゃわかる。
読み取れるのはそんな言葉ばかり。
『いや、そうじゃなくて会議は…』
「あ?今日終わったよ」
この人、まさか昨日の今日でスケジュールずらしたの?
私なんかのために、そこまで…?