第11章 珪線石の足音
「そんなに体力消耗したの?」
『別に平気ですけど』
「ふぅん、じゃあ中也君に甘えたくなった?」
『…べぇつに、』
こっち向いて言いなさいねぇ、とデレデレ顔の首領。
この人の守備範囲内である今のリアにはかなり弱いらしく、いつもの覇気はどこへやら。
「君がしんどいわけじゃないなら好きにすればいいけどねえ、記憶がこんがらがって二度と元に戻れないか動画だけが心配だよ私は」
『戻らなかったら何かまずいの…?』
「……いいや?中也君、リアちゃんに何か言った?」
「…ええっと…元に戻れはするのかと、確認は」
「ふむ。リアちゃん、中也君は君の身体のことを心配しているだけであって、決して幼少期の君の面倒を見るのが嫌だとか、幼い君がいらないだとか、そんな風に思って言ってるわけじゃあないようだよ?」
なぜそこまですらすらと会話が進んでいくのだろうか、そういうところはやはりこの人の為せる技だろう。
『…だってみんなリアのこと嫌いってするもの』
「してないよ、僕や太宰君がした事ないでしょう」
『太宰さんもリアのこと置いてどっか行っちゃった』
「リアちゃん、太宰くんと仲直りしたんじゃなかったっけ?」
『え?…ああ、うんそう、仲直り……したっけ』
したした、週に一回は会ってるでしょう。
首領の言葉に曖昧な返事をする彼女は、やはりどこか様子がおかしいような。
『じゃあ多分した』
「ね?ほら、リアちゃんのこと嫌いってしてないじゃない。太宰くんなんて、今のリアちゃん見たら飛び上がって喜びを表現してくれそうなものでしょう?」
『でもリアが要らないからポイってしたんでしょ?』
「違うよ、君がお家に帰されることになるのを防ぐために置いていったんだ」
そんな理由は初めて聞いたが、あいつが身を隠していたであろう組織のことを考えれば有り得なくもないか。
政府に通ずるような人物に頼み込んで存在をこの世から一度消し去ったようなあいつに、もしもリアが着いていったとなれば……先祖返りであるという理由だけで、十分な保護対象にされ、実家に強制送還されるかその場で完全に軟禁して保護されるのがオチというものだろう。
『家なんてどうせ帰れないわよ』
「中也君にまだ会えてなかったでしょうが」
『中也さんが好きなのは人魚のアマネでしょ』
「いいや、正真正銘リアちゃんの事が大好きだ」