第11章 珪線石の足音
言われるがままに血を吸って、人魚の力を使ったらしい彼女の傷はすぐに癒えた上に傷痕さえ残らなかったものの、やはりというかなんというか体力の消耗は凄まじいらしく、すぐさま俺の元にぽすん、と倒れ込んでくる。
「お前そんな燃費悪ぃのな、何か食い行くか」
『ん…本来無いはずの力を無理矢理応用して作ったから余計になんか…………ごめんなさい』
「俺は構わねえよ、明日からは何か食ってからにしようか」
例えるならば、雪小路の雪女の力だとすれば、凍結させる能力の応用に応用を重ねて、身体を麻痺させたり“感覚を凍結”させたりするようなものらしい。
リアの操る水には鎮静効果が多分に含まれているらしく、以前俺に見せてくれた断界膜と呼ばれるあの結界は、高濃度に濃縮したそれを使っているそうだ。
それを更に使い方を帰ることで、局所麻酔のような役割と治癒効果をもたらした…らしいのだが。
『私がやってるのは、局所的な物事の消去のようなもの…だから記憶を消すこともできるし、例えば相手から思考回路をそのまま消してしまうこともできるんだけど』
「記憶を消すようなとこまでいくと、それなりに代償もデカいわけか」
『…まあ、まず安全な場所でじゃないとそんな力使えませんよね』
「つまりは俺のいる場所は安全だって認識してくれてたんですね?お嬢さん」
よく覚えてましたねそれ、と返す彼女をおぶって移動する。
「まあな。けど俺に放り出されて妖怪の餌食になってたらどうするつもりだったんだよ…って、お前も記憶消えてんだっけ?」
『……そうね、死にたかったんじゃない?その場で中也さんに捨てられるくらいなら死んでた方が多分マシだったろうし』
「いきなり首領から飯作れって言われた時は意味不明だったけどな」
『作らなくていいよ別に。貧血みたいなものだから』
「よかねぇだろ、お前がしんどいのに」
『……あなたほんと私のこと好きね』
すり、と抱きついてきたかと思えば次第に寝息を立て始める様子に、俺の肌に素手で触れていることに気がついた。
結構、慣れてきてくれたよなこいつも。
「あれ、リア寝てるんすか?」
「おう、お前も飯か?」
「今日は夜にも任務入りそうで、まあ…にしてもこんな穏やかな顔して寝るんすねぇこいつ」
「立原、俺あんま見えねぇんだからジロジロ見んなよ」
「はいはい、取りませんて」