第11章 珪線石の足音
『中也さん、ちょっとリアのこと打ってみない?』
「は?骨折れんぞ、やめとけ」
『たまに私のこと本気で煽ってませんか貴方???』
「そこらの野郎に殴られんのとは訳が違うんだぞ。それになんでいきなりそんなこと言い始めるんだよ?」
『ほら、中也さんてリアのことグーで殴ったことないじゃない?敵とか訓練の相手にはいっぱいいつもやってるのになあって』
つまり興味本位ですか、と呆れながら、にこにこしていらっしゃるお嬢さんに向き直る。
「骨とか変形したら取り返しつかねぇだろ、ダメだ」
『なんか最近殴られないなぁって思ったら色々と感覚が鈍りそうでつい…』
速攻で抱きしめて撫でくりまわしてるやった。
なんだよその感覚、いや言わんとすることは分かりはするが。
『中也さんのに慣れておいたら常人のDVくらい大丈夫かなって』
「そんな逞しい物言いのDV被害者他に見たことねぇよ、却下だ却下。そんなもんに慣れんでいい」
『…あの、さあ……えっと、中也さんはあの…』
何か言いたげな様子に言葉の続きを待ちながら撫でるのだが、聞き返す前に、やっぱりなんでもない、と飲み込まれてしまう。
何か言いたかったやつだなあこれ。
「なんだよ、言ってみ」
『…………あの、私と子供作るつもりとかある?』
「欲しい?」
『私のことは置いといて』
「…別に、まだ考えたことねぇってくらいだ、作るって決めたら責任もって育てるし、そんだけ。そもそもお前がまだ成長しきってねえし、産んでくれなんて言わねえけど」
『薬、使ったとしても中也さんに血縁者がいないと先祖返りが生まれない可能性もあるのかなってちょっと思っちゃって』
その発想は確かになかった、とどこか腑に落ちて、考える。
じゃあ作る?なんて言えるようなことでもないし、さてどうしたものか。
「……?そういやお前、なんで俺のことそこまで詳しく知ってんだっけ」
『…会ったことあるから』
「荒神に?」
こくりと頷く様子は本音だろうと思う。
それでよくもまあ平然とした様子でいられるなとも思えるけれど。
「怖くねえの?」
『大丈夫よ、私には従順だもの』
「……えっと、それはどういう??」
『リアにメロメロだってこと♡』
意味がわからなさすぎてこれ以上の詮索をやめることにした。
「なるほどな、器の問題があるわけだ」