第11章 珪線石の足音
なんの電話かと思いつつ、あっ、と何かに気が付いた様子の立原の方へ顔を向けると、自身の時計を指さして俺に時刻を見せてきた。
そこで血の気が引くような感覚に襲われつつ、即座にとりあえずリアに謝罪する。
「!?もう迎えの時間…ッ、悪い、すぐそっち行く!!!」
『あ、いえ忙しそうなら全然一人で「それはダメだ。すぐに行くから絶対待ってろ」中也さん、』
クゥン、と寂しがる様子の子狐ちゃんが見えた気がした。
即座に車に乗り込みに行って出し、最短ルートでお迎えに上がる。
構内に入れば、案の定声をかけられてらっしゃるそいつがいたので、今日も今日とてそこに割り入って彼女の手を取った。
「待たせたな、遅くなって悪い」
「…白縹ちゃん、この人は?」
『え、えと…彼氏』
「「「彼氏いたの!!?」」」
手前らこいつに手ぇ出したら殺す。
目で訴えかけるように微笑んでやれば、震え上がってそいつらはとっとと退散してくれた。
マジでいたじゃん、めちゃくちゃ怖ぇ彼氏!
なんて声が聞こえた気がするが、まあ虫除けになるのならばそれもいいだろう。
『…手』
「繋ぐ?」
『うん…、抱っこもするぅ〜〜〜…♡』
「よーしよし、いくらでも来いよ」
『チューは?』
「せめて車入ってからな」
デレデレ、るんるん。
そんな音が聞こえてきそうな程に俺に引っ付いてはしゃぐリアはご機嫌な様子。
完全に時間過ぎてたな、明日からアラームかけとくか。
『…お仕事優先で大丈夫ですよ?』
「もう十分優先してるけど良くねぇよ、ご主人様最優先だろ」
『どんどんそう君の影響受けてるねえ?』
「待たせて悪かった、電話してくれてさんきゅ」
『!ふふ、♡』
相変わらず撫でられるのがお好きなようだ、うちのお嬢様は。
「今日もお疲れだろ、たまには仕事休み入れろよ」
『嫌ですけど』
「……仕事しなくてもいていいから」
『やぁだ』
「お前はもうちょっと子供になってもいいと思うけどなぁ…?」
『…?中也さんに養ってもらってる』
「そういう考えが十分大人すぎんだって、立派ではあるがな。俺はお前の保護者でもあるんだぞ〜?」
車を降りるタイミングでひょい、と抱き上げてみれば、キョトンとした顔を向けられる。
『あの、あんまり分からなくて。ごめんなさい』
「謝ることじゃねえよ、大丈夫だ」