第10章 アザレアのひととき
彼女に呼ばれ、起こしたかと思って心配するも、首領に通信を切られてそちらに対応することにする。
「おお、悪い起こしたか?」
『……中也さぁん、』
あっ、違ぇわこいつ寝惚けてやがる。
尻尾を振りながら嬉しそうに抱きついてきて、ぐりぐりと甘えるように頭を押し付けてくる。
もういいよ狐が一番で、ほんと寝惚けてっと意味分かんねえくらい可愛いなおまえは!!
耳もあまり触られるのは好きではないのか、触れるとピク、と震えて嫌がられる。
…可愛い。
『んぅ…、……』
好き放題抱きつかれて、そのままあやしているうちにまた寝付いてしまった。
…家庭ねえ?
どうりで嫁にするって大見栄きったのがあんなにささってたわけだ、お前そんなに飢えてんの?
俺が思ってるよりよっぽど子供っぽいところあるんじゃねえか。
例えば…例えばだ。
俺という存在がこいつと一緒になったとして、一体何をしてやれるのか。
自分より人の方が余程自分を好きになってくれる、なんてことは何度か感じてきたことはあったけれど、こういう依存をされるのは初めてで戸惑っている部分は多少なりともある。
かっこ悪ぃから開き直ってはいるが。
何かを望んで俺に期待している、というよりは、一途に想ってきた愛情のようなそれに近い何かを確かにこいつには感じている。
それに…俺の正体を知っていて、本当に全て承知の上でここまで慕ってくれているのならば。
「…………やべぇなあ、完敗じゃねえか俺」
俺が口説き落とすより前からとっくに上をいかれてる女に、どうやって勝てるっていうんだよ。
こいつは俺の元で安心しきってこんな風に眠っていられる奴で、微塵も警戒してくれないどころか緩みきって尻尾まで出しちまうような女だぞ。
と、そこで気がついた。
このまま眠っていいものなのだろうか。
起こしたら起こしたで申し訳なさが勝りそうな気がしないでもないけれど、任務終わりにこの格好のままというのは…いやでも俺が勝手に着替えさせるのは気が引けるしなぁ、別に今回は体調不良とかじゃねえし。
まぁた食事抜いてやがったみたいで多少痩せているような気はするが。
「リア、ちょっとだけ起きろ。そのまま寝たら体休まらねえぞ」
『ん〜〜〜』
「着替えてから寝なさい」
『ちゅうやさぁん、』
「そんな顔してもダメだ」
『着替えさせてパパ』
「…………」