第10章 アザレアのひととき
「だから前々からうちに来ないかって、保護目的も含めて勧誘してたりもしたんだけどねえ…君に会うのが恥ずかしかったんだって。ずっと振られっぱなしだったんだよ?」
「俺に会うのが恥ずかしい…?」
「中也君、リアちゃんのこと覚えてないんでしょう?それに気付いた時その子本当に泣くの我慢しててねえ…偉かったんだよ、それでも君が傍に置いててくれるんなら、しばらくそこにいてみようかなって」
「首領も俺とリアが知り合いだったことを知ってるんですか」
「そりゃあ勿論。付き合いだけなら中也君の方が昔からの知り合いのはずなんだけどねえ…比較的最近だと、それこそ君がポートマフィアに加入するくらいのタイミングかなあ。リアちゃん本当に色々助けてくれたんだからね?」
ドク、と心臓が脈打ったような。
「…それは、どういう意味でしょうか」
「そのままの意味だよ。彼女は元から君の事を知っているからね…君の正体も、君がどうやって今ポートマフィアにいるのかも、リアちゃんは全部知っているし、君の人生にとって欠かせないくらいには足を踏み込んでしまっている子だよ」
「俺の力の正体も?」
「勿論だ。なんなら彼女は…そうだねえ、“荒覇吐”と実際に対面したことのある人物だ。ひとつ勘違いしないであげてほしいけど、リアちゃんは決して研究には関与していない。むしろ君を研究所から解放するにあたって大きな役割を果たしてくれた人物だ」
なんだそれは、何の話だ。
「君がその力をちゃんと抑え込むことが出来たのは、そもそもリアちゃんの力のおかげだよ」
「俺だけが覚えてないんですか?」
「そう。可哀想な話だと思うなら、もうちょっと優しくしてあげてくれないかな…もう十分いい子だって分かってくれてるでしょう?君のためにと色んな無茶を引き受けてくれて、機密情報を探り出して持ち出してきてくれたのは他でもないリアちゃんだよ」
「……いつから?」
「君の元に太宰君が現れる頃からさ。まあリアちゃんは今相当太宰君相手に苦手意識があるだろうけど…」
太宰と知り合い?
そんな話聞いたことねえよ。
「君にバレないのが不憫に思えてきた私からのお節介だけど、そういう面でも君には本当に期待しているんだ。そろそろ私もリアちゃんが幸せに暮らしているのを見たいからね」
「具体的には、どのように?」
「彼女が欲しいのは普通の家庭だよ」