第10章 アザレアのひととき
恐る恐る尻尾に触れてみると、んん、と唸るように嫌がってそれをふい、と避けるように振る。
感覚もあんの?えっ、ガチの狐?
いや、狐ってこんな可愛かったっけか。
「り、リア…なんだよな???」
聞いたとて返事などないのだろうけれど。
頭撫でてたら丸まるように尻尾をこちらに向けてくるん、と振ってきた。
今のもっかいやってくださいリアさん、何回でも見せてくださいそれ。
う、わ…なんだこれ。
「お前そんな可愛かったんなら最初から言っとけよ…」
無意識に能力を発動してしまったという解釈でいいのだろうか。
いや、うん、これは可愛い。
素直に可愛い。
慌てて状況報告も兼ねて首領に連絡すると、ニッコリと微笑ましそうな表情を向けられた。
「ね、リアちゃん可愛いでしょう?♡」
「こんな事だとは聞いてませんでしたが」
「いやあほんと懐かれてるねえ、リアちゃんが寝ながら変化しちゃうなんてレア中のレアだよほんと。何してあげたの?よっぽど嬉しいことしてあげたんじゃない??」
「…機嫌直ったのはほんとついさっきですよ。ホテルに戻るうちに化け物じみた見た目の奴らに囲われて襲われてまして」
「……外で力使っちゃったのかなあ?嗅ぎ付けられちゃったんだろうね……中也君に一つ教えておいてあげようか」
あの異形共の正体を、と言われるのに息を飲んで言葉を待つ。
どうやら異能力者の類ではないらしく、首領は奴らの正体を教えてくれる。
「リアちゃんを襲ったのは妖怪達だろうね。時間帯から考えてもそっちの方がしっくりくる…今回は下手にコレクターや異能力者が相手にならなかっただけまだいい方かもしれないくらいだよ」
「妖怪…ですか?」
「そう、妖怪だ。中には神に近いような存在もいるかもしれないねえ」
なるほど、と、俺を見つめる首領の目を見て腑に落ちた。
俺という器の中身はそれと大差のないものであろうし、なんとなくシンパシーを感じられたというか…納得したというか。
いるのか、そういう輩はやはり。
「…?そんな奴らがどうして白縹を?」
「リアちゃんの体質が目当てだろうね。こればかりは詳しく教えてあげられないけど、妖怪でも人間でも、リアちゃんのことを知ってる輩は少なからずその子を食べようと襲いかかってくる存在だろう」
「…………食べようと、?」
「そう、食べるの。血肉をね」