第10章 アザレアのひととき
「お前あんなん相手してたら気抜けねぇだろ…いつからだ?」
『……ずっと』
「…っし、そっちの腕も見せろ。お前すぐ隠すからなそういうの」
怪我の手当をしながら、話を整理させてもらう。
どうにも幼い頃からああいった輩に付け狙われているらしく、どういう理屈かはさておき、自宅やポートマフィアの拠点、並びに店舗にはそいつらからリアを護ってくれる結界が施されているらしい。
というのも、首領のはからいがあってのことだそうだが。
「俺に相談しなかったのはなんで?なんで言いにくかった?」
『べ、つに…中也さん、私に興味無いかなって』
「本音か?」
『………………手かかるって、思われたら…捨てられる、から』
よっぽどだなこいつ、そんなに俺に見限られたくねぇの。
そんなに好きなくせして、俺に知り合いだったことも、異能のことも何も言えねえの。
「あのなぁ…、あんなんずっと続いてるなんか心配するに決まってるだろ。心配すんのはお前に興味があるからだし、そんな相手が危ないってのに手がかかるとか思わねえんだよ。それに手かかるくらいのこと、可愛いもんだろ」
そういや俺に送り迎えとか頼んできたこと無かったな、と踏み込めば、分かりやすくびくつかれる。
頼らねえようにしてくれてたんだろうなあ、お前は。
「あと、やっぱり狐は見たことねぇから分からん。お前が可愛いってことだけは俺は知ってるけど」
『…?……へ、何』
「狐のこと可愛がってほしいなら、お前が俺に教えてくれ。それなら好きにもなるだろうし、可愛がれるような気がするよ」
抱き寄せて背中を撫で、体をもたれかからせる。
するとうとうとしてきたのか、声も甘くなってきて、落ち着いた様子の彼女が俺に聞いてくれた。
『…リアのこと助けてくれるの?』
「当たり前だ、任せろよ」
『いつでも…?本当に?』
「おう、いつでもいくらでもだ。特別だからな」
すうすうと寝息を立て始めた彼女はどうやら寝付いてしまったようで、白い毛並みの耳と尻尾を一本生やして夢見心地。
…うん???
えっ、あっ、これ?これか!!?
耳と尻尾と生えてやがる、超絶もふもふの…とんでもなく可愛らしい生命体が。
待てよお前、狐って。
「…これは流石に反則じゃないですか?可愛いに決まってんだろこんなもん」
衝動的に携帯のカメラで写真に納めることに成功した。