第10章 アザレアのひととき
『中也さんはリアのこと一番じゃないでしょ、分かってるんだからね』
「なんでさっきからそんな怒ってんのお前!?狐飼いてぇの!?探そうか!!?」
『なんで他の狐に浮気するのよ!!!』
「浮気じゃねえだろ、お前が好きなら探そうかって言っただけで!?」
『飼ったら飼ったでそっちばっか構うんだ、リアよりそっちの狐にうつつ抜かして抱っこして吸って一緒に寝てお風呂に入れて可愛がるんだ』
いいから一回落ち着けって、としゃがんで会話を試みてみる。
何をさっきから浮気だなんだっつってるんだこいつは。
と、そこで広津からアイコンタクトを送られるので、リアを部下に預けて話を聞きに行く。
「なんだよ、手前何か知ってるだろその感じ」
「なんというか…本人が中也殿に色々と言いにくくなってしまったようでして。……狐は、お嫌いですかな」
「好きでも嫌いでもねえよ、実際見ることの方が普通ねえだろ」
「……リア殿はその、詳しくは言えないのですが…異能というか能力というか…そういった事情で狐に変化なさることが出来る方でして」
「…………は?つまりどういう事だ?」
「中也殿にカミングアウトしようとされたんでしょう、しかし好きでもないと言われてしまうとその…リア殿はきっと中也殿の事を慕っておられるでしょうから…ね?」
それは知ってるが。
いや、待て、なんでそうなる。
俺はただ単に、狐に関して思うところが無いと言っただけであって。
「…つまりなんだ?狐化できるってバレたら俺が嫌いになるとか思ってるってのか??」
「本人はかなり気にされてますので…女性ですし、ね?」
「そんな鶴の恩返し的な展開って……いや、異能力なら有り得るのか?あるな、多分あっても何もおかしくねえし…って待て、なんで手前がそんなこと知ってやがる」
「私も首領も、彼女とはそこそこ長い付き合いですから。中也殿ともお会いされたことがあったはずなんですが、どうも覚えてらっしゃらない様子だと…入社当初にリア殿が嘆いておられましたよ」
マジで知り合いだったんかい…!!
薄々そんな気はしてたけども!してたけどガチかよ!!
「…り、リアちゃ〜ん…???」
『…………なぁに、狐嫌いの中也さん』
「嫌いじゃねえって、違うんだよ。狐のことあんま知らないだけなんだ、嫌いじゃねえから!な??」
『犬と猫じゃないもん…』