第10章 アザレアのひととき
「中也さん〜、さっき準幹部がこっち来られてましたよ。何したんですか、すごい泣いてましたけど」
部下共が俺を訪ねて何度か足を運ぶ程度には様子がおかしいらしい。
なんだよ、あいつ狐が好きなのか?狐好きか???
狐とか詳しくねえっての、よく知りもしねえのに好きとか言えねえだろうよ。
「中也さん、準幹部のこと振ったって本当ですか!?」
「どういう話になってんだ!振るかよ俺が、寧ろ俺が振られてるんだよ!!」
「今ものすごい泣かれてましたよ!?何したんですかあんた!」
「どこで見かけた!?」
「広津さんにあやされてたのは見かけましたけど…」
居場所を聞きながら広津さんの元へと向かい、本当に広津さんの目の前で泣きじゃくっている様子のそいつを見つけて駆け寄った。
「だから、事情を話せばきっと…」
『好きじゃないって、言ったの…!』
「中也殿に限ってそんなことは「見つけた!!」!ほら、来られましたよ」
『あっち行って!中也さんは犬でも猫でも好きな子飼って可愛がってれば良いでしょ!!』
「いらねえよ、お前一人で十分だわ!?いいからこっち来い!」
『大して好きでもなんでもないくせに!』
「それは狐の話であってお前の話じゃねえだろうが!!」
『狐も好きって言いなさいよ!!』
「もふもふで可愛らしい狐ならばっちこいだわ!!!」
犬と猫より?と聞かれるので、そこまで狐は詳しくねえから、と言えば今度は胸元を押して嫌がられる。
そんなにか、そんなに狐が好きなのかお前は。
『…、じゃ、じゃあ魚は…?』
「美味いならまあ」
無言で本日二発目のビンタをいただいてしまった。
そういう意味でないとそこで理解して、綺麗なやつなら好きだぞと慌てて訂正を入れる。
こいつそんなに動物好きだったのか…?
『広津さんはこんな風に酷いこと言わないもんね』
「まあ私も首領も狐が一番可愛く思っていますしね」
『……広津さんリアのことお嫁さんにしない?』
「「「「えっ?」」」」
「この老いぼれでは貴女をすぐに一人にしてしまいますから。中也殿も分かってくださいますよきっと」
ひとまずベリッ、と引き剥がしてからリアを手元に取り戻し、深呼吸。
「お、おま…っ、広津がタイプ…なのか…?」
『……リアのこと一番好きなら誰でもいい』
「じゃあ俺でもいいだろうが!?」