第10章 アザレアのひととき
『…!ど、どこ行くの』
「ん?水取ってくるだけ。喉痛めちまうだろ」
『ダメ、行っちゃダメ』
「あそこの冷蔵庫見えるだろ〜?そこまで行って、水とって帰ってくるから」
『絶対ダメ』
「…はい」
彼女を抱き上げて一緒に取りに行くことにした。
こいつほんと素直になったら可愛いじゃねえの。
「口開けろ」
『…ぁ、』
こうしてると赤ん坊か何かにさえ見えてきちまうなぁ、可愛らしいもんだ。
『………中也さんてこういうのが好きなの?』
「どうだろうなぁ…お前はもう少し、こういう甘え方を覚えていってもいいんじゃねえの?」
『こんな風にして触ってくれる人中也さんしかいないから』
「そりゃ光栄なこった」
『……あ、あの…中也さんって、彼女とかいるの』
散々俺から口説かれといてなんでその質問に思い至った???
言いながら頬を軽くつまんでやれば、だってモテそう、なんて言葉が返ってくるので拍子抜けする。
こいつの中でのモテる基準はどうなってんだ。
「どの辺が?」
『…り、リアのこと叩かない…から』
「女殴ってどうすんだよ、これが普通だ。覚えておけ」
『…………無理矢理、その…せっ……え、えっちしないし』
「それも普通のことだ」
『いっぱいあの…頭撫でてギューしてくれるし』
「お前他の奴にんな事されてもホイホイついて行くなよ?心配になってくるわ」
『……も、もしかして中也さん、思ってるよりリアのことあの…好……っ、………………き、嫌いじゃない…の…?』
惜しかったなあ、好きかって聞きたかったんだなあ??
頑張った頑張った。
「好きじゃねえと普通、こんなことしないと思いますよ?」
『二ヶ月も離れてて、あの…中也さんは、平気なんだって思ったら余計になんか…なん、か…』
「ああああもう、泣くなって?平気じゃなかったろどっからどう見ても。な〜???」
『ちゃんとリアのこと飼ってよ』
「お前は犬猫じゃねえだろうが!?」
『犬か猫じゃないとダメ…?狐は嫌い…??』
「なんで狐!?」
嫌い!?と詰め寄られる圧に気圧されつつ、嫌いじゃねえけど普通、と素で返せばボロボロと涙を溢れさせてベシッと軽く頬をビンタされた。
えっ、ビンタとか出来たのかこいつ。
『中也さんなんか大っ嫌い!!!!』
吐き捨てるなり布団を被って外に飛び出していってしまった。