第10章 アザレアのひととき
ヨコハマに向かうつもりだったのだが、まさかの広津が護衛をして送り届けてくれるとのことで大人しくあいつが来るのを待つ。
車で送られてきた彼女は相も変わらず小柄で…綺麗だった。
ああ、そうだ、やっぱり綺麗なんだよこいつ。
『…お出迎えが無言とか、ほんとありえないんですけど』
「高い高いしてやろうか」
『は…?えっ、あっ、ちょっと!!?』
とっとと捕まえに行って抱き上げて、嫌がられながらも盛大に心の底からの喜びを表した。
くるくる回って降ろして抱き寄せて、なでこなでこと頭を撫でくりまわして持ってきていたお菓子を食べさせて。
「あ゛〜〜〜やっと吸えた…」
『暑苦しい』
「中也殿、少々やりすぎでは」
「二ヶ月ぶりだぞ仕方ねぇだろ!?腹減ってるだろ〜、飯いっぱい作ってるから食べようなあリア〜〜〜♪」
『何この人、誰この人。ちょっ、広津さん助け____』
言い切る前にとっとと姫抱きにしてホテルに連れ入り、レストランにエスコートする。
この瞬間のためだけに大量に準備してきたんだ、たんと食いやがれ。
『何ここ、何このレストラン』
「リアが来るって聞いたから厨房まで貸し切って作っといたぞ」
『…中原さんそんなに私のこと好きでしたっけ』
「お前が居なくなって初めて気付いたんだよ…いつもほんと優秀な……可愛がってやろうと思って」
『やだ気持ち悪い』
「クソ生意気な態度さえ可愛く思えてくるわ、存分に食えよ♪」
ソファーに降ろしてカトラリーを準備。
次々と料理を皿に盛っては彼女の前に並べていく。
『…これ全部中原さんが?暇だったんですか??』
「いや、ちょっと一昨日から深夜テンションで作りすぎた」
『抗争中でも余裕ですね貴方』
「そりゃあお前が来るって言うんだから、もてなさねえといけないだろうが」
『あ、え…そうですか。……広津さんも一緒食べましょ、美味しいですよ』
「おー、食え食え。特別丹精込めて作ってっからな、レアだぞ」
「それではお言葉に甘えて」
「飲み物は?ジューサーもあるからフルーツジュースも作れるぞ」
『ちょっとでいいから正気に戻ってくれませんか』
嫌がられるのさえ嬉しくなってきた、これが末期症状か。
『………♪』
しかしまあ、美味そうに食ってくれるあたりがまだまだ素直なものである。
作った甲斐があったなこれは。