第10章 アザレアのひととき
落ち込んでる…?
あの白縹が。
「落ち込んで…って、それはないでしょう。俺がこっち来る時も見送りどころか連絡のひとつもなかったですし」
「君に会ったら引き止めちゃいそうだったからじゃない?リアちゃんものすご〜い乙女だからねえ」
『失礼します』
「リア!!?!?」
そこに響いた、今最も俺の欲していた声。
反射的に呼んで画面に張り付いてしまったが、あいつは応えてくれるのだろうか。
『…あの首領、仕事の呼び出しって』
「うん、ちょうど今中也君とお話中」
『なんでお話中に通すんですか?はいこれ、資料出来た分です』
まさかの無視から始まった。
塩対応ですら二ヶ月ぶりだとここまで嬉しくなるもんか。
「リアちゃん、中也君とこ行きたい?」
『別に』
「君もそろそろ長期休暇だろう、行くなら護衛つけるけど」
『……来なくていいって言われたから、行かない』
が、そこで塩対応の理由が判明した。
…えっ、あいつまさかまだ拗ねて……??
「リアちゃん学校あるから、そっち優先しなさいって言われただけでしょ?中也君、君が来るなら来るでちゃんと夜の護衛だってしてくれるつもりだったんだからね」
『リアのこと置いてった中也さんなんか知らない』
「おい待て、お前何言って『貴方にこっちにいろって言われたら、嫌って言っちゃいけないじゃないですか…!』そんなに来たかったのか!?ごめんって!!!」
『死ぬほど後悔して二度と同じこと出来なくなればいいんですよ』
ガチで怒ってらっしゃるじゃねえか、どうしろってんだ俺に。
「り、リア?」
『…』
ツンとした様子なのだろうか、無言の彼女に首領が苦笑いで話しかけてくれる。
「リアちゃん、そう、リアちゃんだねえ?うんうん」
アイコンタクトを送られたところではっとした。
ちゃん…?えっ、俺がちゃん付け…するか?したらいいのか???
「…白はな『じゃ、私はこれで』リアちゃん!!俺と話して下さい!!!」
『なんなんですか、しつこいですね』
上司に向かってしつこいとはなんだ、といつもなら言うところではあるけれど、どうやら画面の向こうのチョロ子はちゃんと話を聞いてくれる気になったらしい。
「休みいつから!?」
『…明後日』
「じゃあ明後日迎えに行くからこっち来てくれ、お前がいねぇと困る!!!」
『…………自分で行けます』