第10章 アザレアのひととき
存外、話をしてみるものである。
頭の堅い相手ではない上、俺が言えばちゃんと聞いてくれる奴だと、そう思った。
遠征の任務に行くからと、学校があるならそっちを優先すべきだろうと言えば、あっさりとそれを飲んで滞在することを選んでくれた。
本当にいいのかと聞きそうになったけれど、仕事もしておくから大丈夫だと言う彼女はもう調子もだいぶ戻っていたようだったし、念の為に何かあったら使っていいからと家の鍵だけ渡しておいたのだが。
「中也君?心ここにあらずって顔してるけど」
「いや、なんかこう…思ってたより懐かれてないのかもと思いまして」
「そんな事ないと思うよ!?ていうかまだ引きずってたのかい、もう二ヶ月前でしょう!!?」
「元気してます…?一切連絡来なくて…いや、仕事の進捗報告だけ書類で送られてくるんすけど……そうじゃなくてやっぱりほら、なんていうか全然現状を把握できてないとやっぱり娘は心配と言いますか」
「中也君の方がやられてるねえこれ…?」
現状の報告と、指令を受けるべく定期的にネットで顔を合わせて会議をするのだが、未だにあいつの顔は見えない。
こっちもこっちで、ようやく膠着状態がとけそうな程度の具合であるし。
出来ることならばあいつの手を借りたかった場面ならいくらでもあった、というのが本音である。
しかし呆気なく俺の提案を受け入れていただいた手前、そんなことを言えるわけもなく何か会話の糸口くらい、とは思っているのだが。
「あいつ、だって携帯持ってないって…社用のメールでプライベートな連絡するなってすごい真っ当なこと言われて…」
「真面目だからねえリアちゃん」
「白縹一人いるだけで三ヶ月は早く終わりますよこの抗争!!!どっからスカウトしてきたんですかあんな優秀な奴!」
「君が連れてきたんだけどね確か。ふふっ、伝えておくよ。中也君がものすごく褒めてたよって」
「言わなくて結構ですこんなこと」
「リアちゃんもリアちゃんで、私の前で一切中也君の話をしなくなっててねえ。寂しがってると思うんだよ」
それはただ単に俺の事などどうでもいいから何も話さないだけなのではないでしょうか。
いやまあ、それならそれで健康的に暮らしてくれてそうだからいいんだが。
「…うちの娘は元気してますか?」
「元気は…どうかな、中也君に遠征の話されてから落ち込んでるっぽいけど」