第10章 アザレアのひととき
俺の帽子を被ったままちょこんと座っているそいつは流石に目立っていたようで、ナンパ避けには十分な効果を発揮してくれたらしいそれに一安心した。
「ほら、冷やしとけ。一応湿布ももらってきたけど」
『…幹部が優しい』
「あ?優しかねぇよ、普通だ普通」
『あ…そ、う』
あからさまに声が少し落ち込んだような気がするんだが。
いや、あの、お嬢さん?なんでそんなちょっとしょげてるんですかほんと。
「えっと…どうした?」
ふい、と目を逸らされた。
あれ、やべえぞこれは結構刺さるものが。
次第に、じゅんわりと彼女の目元が潤み始めていくのに気が付いて、慌てて傍に駆け寄った。
「何、俺が何か強く言っちまった!?ごめん!!?」
『特別、って…言ってた、から。……そうなのかと思っ…ち、違って恥ずかしかっただけ。ごめんなさい』
「特別対応で合ってるぞ!?お前には特別優しくすんのが俺の普通なんだよ、何も間違ってねえから!」
『…………じゃあいいや』
じゃあいいやってなんですか、どういうことですかそれは。
「保冷剤じゃ食べにくくなるか…俺が食べさせてやろうか?」
『流石に幹部様に食べさせてもらうのはちょっと』
「俺がいいって言ってるんだけ…ど……?」
そわそわしてそうなそいつから帽子を返してもらうべく取ってみると、あっ、と少し慌ててリアクションされる。
耳の先をほんのり紅くしたそいつの顔は明らかに照れている時のそれであった。
「ほら、腕出してみ」
『……』
恥ずかしそうにそれを出してくれ、俺が触れればビク、としたような。
初だよなぁやっぱ。
「…って、お前湿布被れるっつってたっけ」
『ぇ、あ、なんでそんなこと覚えて「いや、言えよ!?」せっかく持ってきてもらったから、あの…』
「マジでいい子だなほんと…塗るタイプの方も持ってきといてよかったけど、直射日光当てねぇほうがいいのか?包帯巻く?」
『それはさすがに過保護です』
「…じゃあやっぱ俺が食べさせてやるよ」
『恥ずかしいからヤダ!!』
やだって言った。
おお、あの白縹が、俺に…やだって言った。
「成長したなぁ〜〜〜???♪」
『意味わかんないこの人!』
「冷えピタにすっかあ」
『…』
こいつどこまでやるつもりだよ、と言われたような気がした。
過保護…ではねえと思うんだがな。