第10章 アザレアのひととき
「もっと他にも食べに行きません?」
「近くに美味しい喫茶店があるんですが」
料理を受け取って席に戻る。
そこで発生していた事態はといえば、おなじみのナンパ事案である。
『いや、あの…』
「食堂にいらっしゃるなんて珍しいじゃないですか、是非ご一緒させてください!」
『つ、連れがいるので』
「俺も混ぜて下さいよ♪」
手を取られれば一瞬反応に困ってか固まってしまって、しかし反抗するのを抑えたような様子のそいつに、違和感。
嫌がってたらそんな顔して我慢すんの…?
それじゃ相手に押しきられたら、お前断れねぇんじゃないのかよ。
「連絡先交換しましょ、白縹さん」
『携帯持って…きて、なくて』
「じゃあ俺の連絡先渡しておきますんで」
『あの、手…』
「今晩デートして下さるなら離します」
目的が分からないわけではない…だろう。
流石に、分かってるよなあいつも。
『…しなかったら?』
「OKして下さるまでねばるまでで____」
トン、とテーブルの上に運んできた料理の品々を置いていく。
するとそいつは俺がいるのに気付いたようなのだが、何も言ってきはしない。
そんでもって、そのくせ困ったような目をこちらに向けて、無意識にSOSを飛ばしてきてやがる。
それじゃ、傍から見てる人間には伝わらねえっての。
「“リア”、とりあえずこれから食い始めとけ。あともう一カートとりあえずあるから」
「!?中原幹部…えっ?」
「手前“俺の腹心”に何してんだ?ナンパなら他所でやれよ、そいつに何かしたら殺す」
「い、いやいやいや、デートのお誘いですこれは!ねえ!?」
『OKしないと離さないって脅されてる』
「って認識らしいけど?あと連絡先とか交換させねえから…男二人で囲ってんじゃねえぞ」
睨めつけただけで怖気づいたそうで、失礼しましたと引いていった。
ったく、食事中に喧嘩する羽目にならなくて良かったぜ。
白縹だってまだ本調子じゃねえっての…に………?
「…おい、手首見せてみ」
『な、なんで』
「いいから、さっき掴まれてただろ」
おずおずと見せられたそこは赤く痕が残っている。
そりゃ抵抗しろっつったって無理なもんがあるか、そんな力で握られてたんなら。
「…保冷剤もらってくっから、これ持ってろ。厄除けだ」
『!いいんですか』
頭に帽子を被せてやった。