第10章 アザレアのひととき
「おい、休憩挟め」
『む〜…』
「今日は業務させねえって話だったろうが」
『パパ過保護』
「もうパパでもなんでもいいけど過保護じゃねえよ、お前がそもそも仕事しすぎなんだ」
『パパ〜、食堂のメニュー全部買って〜♡』
「…………そんなんでいいのお前?」
え、と固まるそいつに幹部特権の食堂用ICカードを見せてやる。
首領から渡されてたろお前、と思いながらも、まるで知らなかったとでも言うように目を輝かせていらっしゃる様子に思わず笑いそうになった。
『魔法のカード!!』
「お前も持ってるだろ」
『ううん、いらないって言って返しちゃった!』
「…えっ、いらねえって言ったの?なんで?」
『つい癖で……じゃ、なくてえっと…べ、別になくても大丈夫かなって』
癖でって言ったな完全に。
お前根がいい子ちゃんすぎねえか、なんでマフィアなんかやってんだよ…って、俺が面倒見てやるって啖呵切ったんだったかあ?
「……お前の分使えるよう申請してやるから、俺のやつなら使っていいぞ」
『パパ大好き』
「それ流行ってんの?」
『パパ活ってやつ?』
「違ぇから絶対それ言うなよお前」
飯行くか、とパソコンを閉じて立ち上がれば、きゃっきゃとそいつも着いてくる。
そう、今日は微塵も行方をくらませずに着いてくるのである。
こんな日が来るとは思いもしなかった、素晴らしい優越感だ。
……いや待て、こいつ俺以外相手に勝手に放浪したりサボったりしたことねえよなそういえば。
「お前今日はちゃんと俺に着いてくるんだな」
『……え、あ…やっぱり邪魔で「あーあー、違うから!そんな風に思ってたのかよ、いくらでもいればいいだろうが!?」…』
ぴょこ、と隣にやって来て、いつぞやのように腕にむぎゅ、と抱きついてきた。
廊下を歩いていたらしい部下共の動揺がこちらにまで伝わってくる。
中には書類を床に落とした奴もいるほどだ、それほどまでに珍しい…というより、この場においては初めての光景が今広がっている。
「…おー、好きにしてろ」
『メニュー制覇』
「そっちじゃねえよ」
好き放題にメニューを選んでやるけれども。
仕方ねえな、いくらでも食えよ。
『ちょっろ〜』
「俺も食うんだよ」
『ふふ、リアより食べないくせに?』
「お前より食える奴の方が少ないだろ」
『いただきま〜す…♪』