第10章 アザレアのひととき
俺の作った食事を頬張り、もっきゅもっきゅと食べながらその味に浸るように目を細めて静かにしている目の前の少女に、安堵すると共にカメラを向けたい衝動に襲われた。
やべえ、この生き物可愛いぞ…元気だとこんな顔して食うの…?
ほんと食うの好きだな美味い?そんなに美味い???
本来の美味さ以上に幸せそうな顔してらっしゃいますけどそんなに嬉しかったですか、左様ですか。
『オムレツ…♡』
オムレツ好きか、よーしよしよし。
骨の髄までインプットしておいた。
珍しく判明した白縹の好物だ、次の機会があるなら絶対にまた作ってやる。
「今日は一応出社しようと思ってるけど、勤務時間中お前どうする?別に着いてきても寝てていいと思うけど」
『!お仕事できる』
「…無理しねえ?俺基準で見た無理具合の無理な。あと、適度にちゃんと休むのと昼食もしっかり食べること」
『中原さんの過保護久しぶりね』
「馬鹿、お前栄養失調と疲労でぶっ倒れてたんだぞ」
大丈夫大丈夫、と食事に没頭している様子を見ながら不安になりはするけれど、何はともあれ離れるつもりは無いらしい。
こいつにとっては俺が傍にいることの方が大切なのだろうから、素直になりきれていないらしい白縹が仕事を口実に使いたいのであればそれを搾取してしまうのはやめておいてやろうではないか。
普段からこうならもっとお互い分かり合えるようになると思うんだがなあ…?
俺にこうして懐いてくる割にはサボってるような態度をとっておちょくってくるような気がするが。
「…お前、素直な方が可愛らしいぜ?」
『もうその手口には乗りませんから』
オムレツを大皿から取り分けて俺にくれた。
なるほど?手口に乗せられてるんですね?
「お口に合ってるようで何よりだよ」
『……あ、ありが…』
言いかけて、恥ずかしそうに顔を俯かせる。
お礼を言うのに相当慣れていらっしゃらないらしい。
『ごめんなさ、い』
「…謝んなよ。聞こえてっから安心しろ、こっちこそありがとな」
『!!』
ぱっ、と顔を上げれば、照れ隠しをするようにまた食事を再開させた。
「あんま急いでかきこみすぎんなよ?喉詰めるぞ」
『ん…』
「紅茶?牛乳?」
『……い、一緒行く』
「飯食ってていいよ、お嬢様」
『あ、ぅ…うん』
お気に召してくれたのか、顔を真っ赤にしてらっしゃった。