第10章 アザレアのひととき
飯を作ってるうちにテーブルを拭いてもらい、食器を準備してもらえば暇になったのか、背中から俺の手元を覗き込むようにちょろちょろと周りをうろつくようになってきた白縹。
素のこいつが懐いてくると達成感があるんだよな、警戒心こんなに低くなってんのレアだし。
「どれかつまむか?」
『い、いい…一緒に食べる』
「味見もいらねえ?」
『子供扱いしないでください』
とか言いつつ背中に隠れるんじゃねえよ、可愛いなこのやろう。
「準備助かったわ、ありがとうな」
『!別にこれくらいは…ご、ご飯作ってもらってるからです』
「ははっ、そうかそうか。いくらでも食べていけよ」
『……ん〜〜』
ぎこちなく返事しながら、ぴっとり引っ付いてきて甘えたちゃんモードのスイッチが入る。
マジで珍しいな、看病した報酬にしてはレアすぎる。
そうだよ、身体で払うも何も、こうやって俺に懐いて甘えてきてくれるだけで俺にとっては馬鹿みたいに価値のあることなんだし。
「っし、汁物何にする?味噌汁か…インスタントならコーンポタージュとかも買っといたけど」
『中原さんが普段飲まないやつでいい』
「好きなのはどっちなんだよ」
『…中原さん、が………作ってくれるやつ』
インスタントでも違和感のあまり無いような言い回しをしてくれたのだなと即座に察して、彼女の食の好みがシンプルに手作りの品であるということを悟った気がした。
そういや、作ってもらうのに慣れてなさそうなリアクションだったっけか。
「んじゃ味噌汁な。玉ねぎいける?」
『辛くないなら大丈夫』
「任せとけ」
ぽんぽん、と撫でれば嬉しそうにして擦り寄ってきた。
体調悪い時だけかと思ってたが、恐らく単純にデレ具合と俺への信頼度などを総合した結果が普段の度合いだったのだろう。
よっぽど色々とお気に召してくれたらしい。
「普段から美味い珈琲やら差し入れやら用意してもらってるからな、お前には」
『してない』
「バレバレだから諦めろよ。俺の好みの味探って調整してくれてるくせに」
『……してないもん』
うわぁ、余計に甘えてきてるじゃん、絶対図星じゃんこいつ。
「一回作るくらいなら誰にだってできるんだよ。いつもありがとうな」
『ふん、』
「なんでこういう時に限って謙遜するかなお前は〜?」
『…………してない』
「はいはい」