第10章 アザレアのひととき

ベッドから立ったところで多少立ちくらみがあったような様子でふらつきはしたものの、歩けるし息切れしている様子も無いし、激しく動きさえしなければ普通に家の中を動ける程度には回復したようである。

｢首領もしばらく任務は入れねえって言ってたし、ひとまず全快できるまで休むのがお前のしばらくの仕事な？分かったか？｣

『元気じゃなくないもん』

｢体力落ちてんだろうが完全に｣

『…中原さ……か、幹部はあの…私のこと嫌いなんじゃ、』

前にも聞いたことあるような気がするな。

｢嫌いな奴と執務室一緒にしねぇだろ普通｣

『それはその、なんかこう…たまたま気が向いてたからOKしただけとか』

｢俺はお前のこと特別扱いするくらいには目かけてるつもりなんだけどなぁ？普通の部下なら泊めねえし、看病なんざもっとしねえよ｣

『……可愛げないし』

えっ、気にしてんの？
散々俺から可愛がられてんのにまだそんなこと言ってんのこいつ？

は〜〜〜かわい…

｢可愛げねぇ奴相手に添い寝しねえだろ俺が｣

『私としてるじゃないですか』

｢可愛がってるからしてるんだよ、いい加減覚えろ｣

『……………は？私のこと可愛いって思ってるんですか』

｢思ってっけど？｣

顔を赤くさせてから背けられ、それからこちらを向いてもらえなくなった。
反応が同じなあたり、昨日照れてたのもやっぱりガチの反応だったんだろうな。

｢んで、朝食は何が好きなんだよ｣

『…好き嫌いとかない、し…こんな風にしてもらっても何も返せるもの持ってない』

｢昨日も聞いたよ、んなもんいらねえからとっとと元気になってくれりゃ十分だ｣

『なにそれぇ…っ、そんなこと言う人初めて見た……変人…』

声を震わせながら精一杯の反抗心を見せていただいたところで、冷蔵庫の中を確認する。

｢昨日散々買い込んだから、割となんでも作れるぞ｣

『……い、一人前で大丈夫』

｢はあ？食いたいだけ食っとけって｣

『中原さんと同じ量で大丈夫だから』

｢俺に気ぃ遣ってるなら無理矢理食えなくなるまで食わすけど？｣

『………………か、身体で払って足りる…？』

｢払わんでいい！！ご注文は？洋食か和食！｣

恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうにこちらを振り向いて、ぽしょりと一言。

『中原さんの手作りなら、なんでも…』

｢お前ほんと可愛いな？？？｣