第10章 アザレアのひととき
家の中だというのに俺の腕から離れなくなった白縹。
これまでの経験上、俺が目の前で仕事をしようとすれば十中八九それを手伝おうとするので、首領の指示通り大人しく休むことにしたのはいいのだが。
『お休みの日は何してるの?』
「あ〜、飲み行ったりとか?」
『…………行ってらっしゃい』
「いや、今日は行かねぇから。なんで離れた今」
『邪魔したかと思って』
「してねえから好きにしてろ」
腕を広げてみれば、胸元にころん、とやって来るのでそれをそのまま包んでやることにする。
うさぎか何かかお前は。
「お前の方こそ、休みの日何してんだよ?」
『……さあ』
「お前さては仕事してるだろその反応」
『してないけど』
こっち向いて言えやおい。
「休みって何か知ってるか」
『好きなことする日』
「仕事しねぇ日だよ馬鹿野郎」
『だって中原さんいないんだもん』
「……なんで俺?呼べばいいだろ」
『呼…?』
端から選択肢に無かったらしい。
そういやこいつの連絡先も知らねえっけか。
「この際だから連絡先教えとけ、呼んでいいから」
『…えっと、携帯持ってない』
「携帯持ってねえって…おまっ、一人暮らしなんじゃ…?」
『連勝の連絡先あれば何とかなってるしなあって』
「誰だそれ…って、ああ、保護者代わりだっけ?……不便じゃねえ?」
『知らない』
携帯くらい買ってやりゃいいのに、と思いつつも口出しをすべきではないのだろう。
各家庭の事情とやらがあるのかもしれないし。
「…って、社用の携帯もらってねえの?」
『うん?別にいらない』
「現代っ子とは思えねぇな……俺が買ったらお前使う?」
『流石に携帯はちょっと…』
そりゃそうか。
部屋着一枚、タピオカドリンク一つであの反応だったし。
単純にそもそも慣れてねぇんだろうな…まあ、慣れてたとしても携帯は敬遠されるか。
「今日は何かしたいことある?つっても家の中で出来ることに限りだけどな」
『リアが中原さんにご飯作ってあげ「病人の手料理は却下だ」……じゃああの、簡単なお菓子かなにかでも』
「さては俺んとこに届いてる菓子の差し入れお前だろ」
『そんなことないから!!』
あ、こいつだわ、やっぱりこいつだったわ。
「先週のいちごタルトも美味かったな」
『あ、あっそう!良かったね!』
「美味かったよ」
