第10章 アザレアのひととき
一口ずつ先に飲んでもらってから、本日お気に召された方を白縹に、もう片方を自分にと振り分け、帰路を行く。
『もちもち…』
「思ってたより悪かねぇな」
『早く持って帰って防腐処理しなきゃ』
「飲め?????」
『…?飲んだら無くなっちゃうじゃない』
「当然のように言うな、防腐処理したら飲めなくなんだろうが!?」
__だって中也さんが買ってくれた…__
言われたところでブレーキを踏み、横を向いて心からの叫びをぶちまける。
「いくらでも買ってやるよそれくらい!!!飲んでいいから!」
『で、でも初めて買ってくれた』
「タピオカでもなんでも買ってやるよもう!?写真でも撮っとけ!!?」
『カメラ持ってきてない』
少しだけ押し黙ってから、自分の携帯で撮影してやることにした。
これでいいな、と言い切れば、不服そうではあるが少しづつまた飲み進めている様子が見られたので撫でておく。
駐車場でよかった、いきなりそんな可愛らしいこと言うなよな本当。
しかも今何気に中也さんっつってたなこいつ、普段は苗字さえ滅多に呼ばねえくせして、可愛いところあるじゃねえか。
「…車停めるからストロー気を付けろよ」
『はぁい…♡』
おっ、ご満悦。
いい顔するじゃねえの。
家に連れ帰って異能を解けば、やはりまだ力が上手く入らないそうでソファーにそのまま体を倒してしまっている。
「腹減ってる?」
『中原さんはぁ…?』
「あれば食えるかなってくらい。あんまり動いてねえしな」
『じゃあリアもそんな感じ』
「お前のあれば食えるはどの程度なんだ…よ………」
振り向いたところで、本日買ってきたそれらの入った紙袋を腕に抱いて大事そうにしているそいつに、言葉を失う。
何だこの可愛い生き物。
部屋着一枚と下着でそれかこいつ、絶対いい子だろ、絶対お前めちゃくちゃいい子だろ。
「んじゃ先に何か飲みもん入れてやるよ、何がいい?」
『お、お水』
「紅茶かコーヒーか牛乳ならあるけど」
『…紅茶』
「ホット?」
『えっと、中原さんが楽なやつでいいよ』
「蜂蜜入りにしてやるよ」
口ぶりからしてアイスだろ多分、気遣いやがって。
「…ロイヤルミルクティーって手もあるぜ、お嬢さん」
『へっ、中原さんロイヤルミルクティー作れるの!?』
あ、といった声が聞こえた気がした。
へえ?
