第10章 アザレアのひととき
「…よお、おかえり」
『…………中原さん、これお返しします』
「おー、サンキュ」
言いたいことがありそうな様子で車に戻ってきた彼女の反応を見る限り、上手くいったようである。
意を決して店に入ってレジに直行し、店員に頼んでカードを預かっていてもらったのだ。
白縹の容姿は目立つものがあるため、彼女を指して、会計時にこのカードから頼みますと伝えてとっとと車まで逃げ帰ってきた…というのがオチである。
店員に感謝を。
『あの、泊まりの分の数着くらい自分で買えます』
「お前を家に泊めるって強引に決めたのは俺だからな、それくらいさせろ」
『…なんにも返せないのに』
「は?返さなくていいんだよこういうのは…なんなら普段から世話になってんのは俺の方だろうが。色々気遣ってくれてんだろ?」
『使ってない』
「嘘つけ、馬鹿みたいに俺に隠れて仕事してやがるくせに」
『してない』
「はいはい、そうですか……他は?何か見たいもんがあったらこの際だしなんでも強請っとけー」
とか言っても、何も言ってくれねぇんだろうな。
仕方がない、何か思いついたら聞きながら反応を伺ってみようか。
『……中原さん、あれ何?』
「あ?あれってどれ」
『あの…えと、あの人とか…向こうの人とかが持ってるやつ』
「…ああ、タピオカ?飲みてえの?」
『タピオカ』
初めて発音したみたいな声を出して、それを見つめてやがる。
近頃の若い女はああいうの好きだよな〜、やれタピオカだスムージーだなんだって。
「ドライブスルーあるってよ」
『…え?あ、大丈夫。何かなって思っただけ』
あれだけメディアで取り上げられたことがあったタピオカを知らなかったってどういうことだよ、俺でも知ってるくらいだぞ。
「実は俺も試したことねえんだわ。行ってみるか」
『い、いやあの、本当に大丈夫だからっ』
「どれにする?」
話聞いて、とつっこまれるけれどもう店員からの応対を始められてしまったからか、観念してメニューを覗きにやってくる。
そうだそうだ、好きなもの、気になるものを選べばいい。
『な、悩んできた』
「どれ悩んでんだよ」
『これとこれ』
「じゃあミルクティーと苺ソーダで」
『えっ、中原さ「バニラジェラートトッピングも両方お願いします」中原さん!!?』
やったもん勝ちだ、精々甘やかされやがれ。
