第10章 アザレアのひととき
厚着をさせて車に乗せ、人の少ない衣類屋に連れて行けば異能で立たせてやってから手を引いて歩く。
『すごい、こんな使い方あるんだ』
「普段はこんな使い方しねぇけどな。特別仕様だ」
『…とくべつ、♡』
変な懐き方をされてしまったらしい。
躊躇なく腕に抱きついてきて…まあ、女性特有のそれが当たるし、感触がする。
悟りを開けと。
多分これ離れろっつったら泣くよなこいつ。
…いや、あの白縹に限ってそんな事ありえるか?
__おめでたい人ですねほんと__
__あっ、今どこ見てたんです?エロ幹部__
思い出したら地味にイラッとしてきたな。
「…くっつきすぎじゃね…え、か………とかそんなことないよな、全然そんなこと無かったわ、好きにしてるだけだもんな〜そうだそうだ」
え、と言いたげな目を潤ませられたところでもうダメだった。
勝てるかこんなもん、なんでこんな懐いてんだよマジで。
「好きなの選べよ、どれでもいいから」
『…選んで』
「じゃあそこのシャツ」
『分かっ「まてまてまてまて、お前あの、自分の好きなやつとか…」え?中原さんがこれって言ったのに』
「何、俺にそんな選んでほしいの」
『べ…つ、に。……こ、これにする』
なんで最後の最後に、一言うんって言えねぇかなこいつは。
適当に目の前から選んでとっとと終わらせようとしてんじゃねえぞ。
「…却下だ、もっと似合うやつにしろ」
『そんなこと言われたって』
「仰せの通りに選んでやるよ。いくつか候補出すから、気に入ったやつがあったら言えよ?」
『そうじゃ、なくて』
「…………俺に見繕って、プレゼントしてほしいの?」
うんともすんとも言わなくなっちまった。
うんって言えねぇのは分かったが…なるほどなあ?
「試着とかもしてもらうぞそれなら」
『!い、いいよ』
「言ったからな」
本人の気に入り具合は最悪表情で察すればいいし、一番似合うもんを選んでやるよ。
腕が鳴るじゃねぇか。
形状別に見て回りながら、たまに彼女に合わせてみたりしつつ似合う系統を絞っていく。
そしてたどり着いた先に、この子に着せたかった色が見つかった。
あの人魚の鱗を彷彿とさせるような色。
…失礼、だろうか。
重ねて見るのは…しかし恐らく、これが一番しっくりくる。
『……この色好きなの?』
「…似合うだろうなと思っただけだ」
