第10章 アザレアのひととき
『じゃあ私も連れてってくれたら良かったんじゃないんですか』
「…そんなことしたら、それこそ君が中也くんと会える機会を潰してしまうようなものだろう?だから言わなかったんだと思うけど」
『ちゅ…、……中原、さんは…わ、私のことなんか知らないし。…覚えてないし……なんとも思って、ない』
まるで、自分は俺の事を知っているとでもいうような口ぶりだ。
嘘つけ、なんとも思ってないわけあるかよあれだけ傍にいるくせして。
「そうかなぁ〜……前も風邪ひいた時看病してくれてなかった?」
『それ、は…中原さんが部下思いだっただけ』
「嬉しかったくせに♡」
『……自惚れないようにしてるんですからやめてもらえますか。今度こそ失敗しないようにしてるんですから』
「失敗って何?中原くんに捨てられないように?」
『そりゃ…、……森さんに言われたから、良くしてくれてるだけでしょ。…仕事も出来なくなったら部下としても用済みじゃ、ない』
「だからあんな無茶な量しちゃうんだ?中也くんこの間怒ってたよ〜、勝手に仕事先回りで済まされてたの知って」
いや今知りましたけど。
なんですかそれ、いつの仕事の話ですか。
『なんで教えたんですか』
「だってリアちゃんこんなに頑張り屋さんなんだもの♪僕が言わなきゃず〜〜〜っと中也くんに気付かれないようにこっそりお仕事根詰めるでしょうが」
『気付いてないのが間抜けなだけですよ』
「本当に中也くんのこと好きだねえリアちゃんは」
『…………別に』
布団を頭まで被った様子のそいつは、本当に首領の言ったことが図星であると言わんばかりの反応を見せて大人しくなった。
まあ、普通にしんどいだけかもしれねぇけど。
…俺の、知り合い……?
いやでも、あいつは人魚だったはずだし…名前も、違ぇし。
本人ならそうだって、言ってくるだろ。
そもそも人魚が人間になるなんてことの方が信じられねぇ話だ、異能力者じゃなかったはずだしな。
「中也く〜んっ、こっち来てくれる〜?」
『!?へっ、何言って…』
首領に大きな声で呼ばれ、一度深く呼吸をして自分を落ち着かせながら立ち上がり、寝室に入る。
「はい、首領。具合はどうです?」
ベッドの方に再び目をやれば、そこにはちゃんと意識を取り戻したそいつが間抜け面をして目を見開いていた。
「うん、とりあえずは栄養失調!」
