第10章 アザレアのひととき
家に上司がいるのいうのも変な感覚である。
寝室で診察を受け、湯たんぽにヒーターまで駆使して部屋が暖められ、気付けばそいつは点滴を受けていた。
指示されるように朝食を作って作って、テーブルに乗り切らないほどの量を作りきった頃に、首領の声が聞こえる。
「目覚めた?僕が誰か分かる?」
『…………森さん、?』
「うん、合ってるね。君のことは覚えてるかな」
『え…?あ、えっと…今何年の……あ……リア…?だっけ、今』
「うんうん、そうだね。昨日は何してたか覚えてる?」
ボスの言葉への返答が気になって部屋を覗くと、首を横に振っている様子のそいつが確かに意識を取り戻していた。
ホッと一息つけたところで肩の荷がおりたような感覚に見舞われつつ、壁に背中を預けたまま項垂れるように座り込む。
…焦った、本当に。
死んでんのかと思った。
『あの、ここどこですか』
「どこだと思う?」
『……ポートマフィアの、マンション…?じゃないと私夜中に死んでてもおかしくないですよね』
「正解だ。本当だよ、これで倒れて意識なかったのが外だったらどうしてたのさ?」
『そっちの方が案外楽だったかもしれないですよ。八つ裂きにされるなら意識が無いうちの方が痛くないし』
八つ裂きって、何の話だ。
この季節に外で倒れてたらって話じゃなかったのか。
「まあ、そもそもこのマンションだって君を勧誘するために結界付きにしてるわけだしねぇ?いっそこっちに引っ越してこない?」
『いやいや、冗談でしょう?組織の中の人間が私の事狙ってきたらどうするんです』
「そこは中也くんに頼ればいいじゃない」
『…………リア男運無いから』
「またそんなこと言ってる、今度はどうしたの」
『別に…私の事置いて出て行った人見つけたの』
「!おや、よく見つけたね?会ってきたのかい?」
『もう自分がいなくても生活出来るでしょ、だって。死のうかな』
早まらないでよ、と穏やかに諭す首領は、きっと何かを知っているのだろう。
男運…男運っつってたか?
するとどういうことだ、野郎と一緒に住んでたってことか?
「君がまだ彼と一緒に住んでたらほら、君がポートマフィアにいられないかもしれないじゃない」
『…そんなこと言って邪魔だったんじゃないの』
「そんなことない、彼は君のことを本当に大事にしてるだけだよ」
