第10章 アザレアのひととき
数あるメニューの中でも最大級のハンバーガーに、ポテトまでペロリと食べきったうちのお嬢様はとてもお気に召して下さったらしい。
『全メニュー制覇とかやってみたいね!』
「流石のお前でもきついんじゃねえか?」
『余裕余裕♡』
「マジで胃袋ブラックホールだな」
それならそれでもうちょい肉としてついてくれてる方が、保護者目線で見れば安心するんだが。
『別にお腹が特段すくってわけじゃないんだけどねぇ…気持ちわるい?』
「いや、いいんじゃねえの?美味いもん食ってる時が一番いい顔してるし、好きなだけ好きなこと出来た方が幸せじゃん」
『…、そっか。じゃあ次パンケーキタワー行こ!』
「いや待て、俺の胃がまだ空いてねぇ」
『甘いものは別腹よ?』
「パンは今食ったばっかりなんだよ、パンは」
じゃあ追加でハンバーガー買ってくるね、と勢い良く席を立ったリアに財布を渡せば、大事そうに両手で握ってレジに並んでいらっしゃる。
流石にこの距離で見てるし俺の所から並びに行ったし、変なナンパは無さそうだが。
「お、お客様…あの、よろしければ連絡先をお伺いしても____」
「リア、財布持ってたら運ぶの大変だろ?やっぱ俺もついとくわ」
『あれっ、お腹いっぱいなんじゃ「いいんだよ。…ああ、俺にもコーヒーを一つ」なんでメンチ切ってるの???』
うるせぇ、可愛い子を持つと父親は気が気じゃねぇんだよ。
玉砕したように大人しく震え上がってくれたレジの兄ちゃんに注文を通して、食事再開である。
『中也さん人相悪いんだからもっと笑えばいいのに』
「誰の人相が悪ぃんだよ、笑ってたろ」
『キレながらね〜』
「能天気なお嬢さんの警備は大変なんだよ」
『能天気でいいじゃん、中也さんがいるんだし』
「……ポテト食う?」
『食べる〜♡♡』
手ずから食べさせられに来てくれる様子に笑いそうになるのを堪えながら、もぐもぐ食べる様子を見守ってみる。
すると何を思ったのだろうか。
『…!中也さんにもハンバーガーあげる!』
「くれんの?さんきゅ」
よほど嬉しかったのか、俺がするように自分のものを食べさせてくれる様子にこちらも満足させられた。
にしても、リアがここまでジャンクフードに好感を持ってくれるとは。
たまにはありかもしれねぇな。
『中也さん機嫌良さそうね?』
「まあな」
