第10章 アザレアのひととき
人の多い街中で、目当ての場所に向けて歩くうちにも様々な誘惑がリアを襲う。
『見て中也さんっ、熊さんいる!』
「おー、着ぐるみな」
『背丈中也さんと一緒くらいだ〜♡』
「ぶっ飛ばすぞ手前」
『中也さんもう煙草吸わないの?やめてなかったらライターとか色々プレゼント出来たのに』
誰の為にやめてると思ってんだ、と思いもするが、分かっててこいつなりに聞いてくれてるんだろうなきっと。
「…もう吸わねぇよ、誰かさんの身体に悪いもんは吸いません」
『……私が呼吸器弱いの教えたことありましたっけ?』
「煙浴びてきた外套羽織って咳き込んでた奴が何言ってんだ」
『そんなことよく覚えてますね』
「俺が吸ったらお前にしばらくキス出来なくなるからな?分かってる?」
『うわあ、キザ〜!』
ケラケラ笑われるけれど、照れ隠しなのも丸分かりだ。
キザなこと言われんの好きなくせによ。
「ん…?……かーのじょっ、よければ俺らとお茶でもどう?♡」
「おお、かわい〜♪ご一緒していい?」
と、少し俺から離れた隙にすかさず絡んでくる馬鹿共がそいつの肩に触れる手前で手首を掴む。
「いっ、!?なんだてめ…!、?」
「リア、誰こいつら。知り合い?」
『……んーん、知らない!』
「ったく、危ねえ街だな本当に…こっちついてろ、離れんなよ」
『!!』
見知らぬクズ共を捨ておいてリアを抱き寄せてから歩き始める。
『中也さんが一緒にいたらどこにでも行けるね』
「おー、そうしろそうしろ。俺といねぇとすぐどこにでも連れてかれそうだからなお前は」
はしゃいでる様子からしてみて、本当にこういう場所に出歩くこと自体あまり無かったことなのだろう。
…結構、普通に街中歩いてる時の方がいい顔して笑ってくれたりするんだよな。
『あそこ知ってる、ハンバーガー屋さん』
「…お前もしかして食べたことねぇの?」
『あるし、全然あるし』
「食べたことねぇなら行ってみる?」
『……どれが美味しいの?』
素直におすすめを聞いてきた。
こういうところが可愛らしい。
「腹どんくらい減ってる?」
『いくらでも食べられるよ』
「じゃあこのへんのガッツリのやついってみるか。食いきれなかったら食べてやるし」
『ジャンクフードだぁ…♪』
大手のチェーンだし、CMか何かで知っていたのだろうか。