第10章 アザレアのひととき
言わんとすることを察知して、中也さんの腕にむぎゅ、と抱きついてみる。
「…やっとこっち戻ってきたのかよ」
「ああ、ていうか今日早速ラウンジに入ってって言われちゃってるから…折角来てくれたところ悪いんだけどね。ごめんねリア、また誘ってくれる?」
『……そう。…うん、じゃあお仕事頑張ってね』
「うん、ありがとう♪美味しいご飯作って待ってるね」
『何それ、ラウンジで食べればいいの?』
「晩飯はラウンジな、ちゃんと用意しておけよ」
あ、OKなんだ。
「任せてよ、リアのために美味しい海鮮用意しとくからね!♡」
『!も、もう遊び行ってくるから…また後でねマーク君、じゃあね!!』
ぐいぐいと中也さんを引っ張ってとっとと退散した。
好きなのバレてる、あの人ほんとに面倒見いいんだから。
「ふぅん、海鮮派か」
『な、なんの事かしら』
「いや、なんでも美味そうに食うから何が好きなのかと思って」
『リアは中也さんのご飯ならなんでも「ああうん、知ってる」なんで流しちゃうの!?』
「…朝食はどうする?外出てもいいけど」
『え…、あ、ぅ』
どうするって、聞かれると言葉に詰まる。
どうするのがいいのか、なんて答えればこの人にとっていい返答なのかを考え込んでしまう癖が抜けない。
『え、っと…せ、せっかくの休みだし中也さんも疲れて…る?』
「リアはどうしてえの?」
何でもは無しな、としゃがんで目線を合わせられれば、誤魔化せそうにない。
『いや、あの…ほんとにどっちでも「リアちゃん?」……中也、さんの………ご飯食べたい』
「はい、喜んで。よく出来ました」
『休みの日まで動かされてなんでそんな嬉しそうなの…?』
「なんでも何も、お前がしたいことのためなら俺はなんだってするからなぁ…動かされてるんじゃなくて生きがいだよ、生きがい」
『……変なの』
「高級料理より俺の手料理を仰せのお嬢様にゃ言われたかねえな」
しれっと手を繋がれるのにまた耳と尻尾が生えてしまう。
外では気をつけなきゃ。
『…えへへ、』
「もしかして機嫌いい?」
『中也さんリアにいっぱい構ってくれる♪』
「じゃないと孤独死しちまうらしいからなぁ?」
抱き上げられて、子供みたいに背中を撫でられて、甘やかされて。
朝からこんなに幸せでいいのかな。
「いいデート日和ですね、お嬢さん」
