第10章 アザレアのひととき
__嘘つけ、そんな事思ってもねぇくせに__
「…そりゃあどうにもならねぇ話だろ、忘れてほしけりゃそれなりの行動を取るこった」
『あらら、ダメだわこの人。いつの間にそんなにリアのこと好きになっちゃったの?』
「うるせぇ、お前が先に俺のこと好きになったんだろうが」
カップを取ろうとすると先回りしてそれを取ってくれて、そのままそこで飲めと暗に仰せつかって大人しく従うことにする。
考えたのよ、これでも。
でもどうにもならないことを予見するんだって、散々思い知らされちゃったから。
『中也さん、リア疲れちゃった。怒んないでいてくれる?』
「おー、朝飯前だよ。姫さんが疲れてんなら犬が動き回ればいいだけの話だろ、ゆっくり休んでな」
一矢報いるくらい、いい加減許してくれるでしょ。
この人が私の近くにさえいてくれれば、きっとどうとでもしてやれる。
『リアのこと一人で置いてどっかいったら解雇するからね』
「調べ物くらい勘弁してくれませんかね」
『ダメ。孤独死するかも』
「分かった分かった」
他の住人を気遣ってる余裕は恐らく無い。
カゲ様はカゲ様で一緒にはいられないし、私がいればあの人の寿命を縮めることになりかねない。
そう君の近くにもいない方がきっといいでしょうね。
…自分の死に場所も選ばなくちゃならないなんて、本当にろくでもない力だわ。
残夏君にバレちゃうのが一番面倒くさいのだけれども、多分中也さんがいる限りそれは避けられないことなんでしょうし。
というか、あの人も少しくらいは同じ未来が見えてるんでしょうしね。
『リアが死んだら、契約は勝手に切ってくれていいようにしてあるから』
「ご丁寧にどーも」
『いっぱい一緒にいようねぇ、中也さん』
少しだけ、私を抱くかれの腕の力が強まったような気がした。
それだけでも今生は、どこか救われるものがある気がする。
「……お前さあ、太宰に何か入れ知恵したろ」
『ふふ、バレてた?』
「おかしいと思ったんだよ、いきなりあいつを呼べなんて。何かまだ俺に隠してんな?お狐様は」
『女の子は秘密が多い方が魅力的でしょう?』
「何が秘密だ、んなもん無くてもお前は世界一魅力的な女だよ」
『……なんか中也さんのくせに生意気』
「ドキッとしたかあ?」
『ふん、何とも』
分かりやす、と笑ってくれた。
